特集2020.11

テレワーク探求在宅勤務・テレワークの動向は?
互いを信頼し合えるマインドが大切に

2020/11/13
緊急事態宣言に伴い急速に拡大した在宅勤務・テレワーク。その後、実施企業の割合は縮小傾向にある。この間の動向や、見えてきた課題について識者に聞いた。
池添 弘邦 独立行政法人
労働政策研究・研修機構
副統括研究員

テレワークの急拡大と縮小

独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)では、新型コロナウイルスの仕事や生活への影響に関する調査を継続的に行っています。それによると、今年2月の企業の在宅勤務・テレワークの実施率は、5.3%でした(グラフ1)。

グラフ1 在宅勤務(テレワーク)の実施率

JILPTが実施した2008年と2015年のテレワークに関する調査では、概ね4〜5%くらいの企業が在宅勤務・テレワークを実施していました。

個人調査を見ても、2015年の段階では、家で仕事をする人の割合は20%程度でした。この中には、「持ち帰り残業」をした人も含まれるので、会社の制度として在宅勤務をしていた人は、多く見積もっても10%程度だったと思います。新型コロナウイルスの感染拡大前のテレワークの状況は、おおよそこの程度だったと言えます。

こうした状況が、新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う緊急事態宣言によって一気に変わりました。2月に5.3%だった在宅勤務・テレワークの実施率は、4月には47.1%、5月には48.1%にまで急速に拡大しました。

個人調査でも、5月時点で在宅勤務・テレワークをした人は29.9%に上りました。コロナ前の割合からすると、約3倍に広がったことになります。

しかし、緊急事態宣言が明けて以降、テレワークの実施割合はかなり縮小しています。5月の個人調査で29.9%まで拡大した在宅勤務・テレワークの実施割合は、7月末には18.3%にまで低下しています。

また、テレワークを実施してきた企業の従業員で、週に1回も在宅勤務・テレワークを「行っていない」と答えた人の割合は、5月第2週には5.7%まで低下しましたが、7月の最終週には51.2%にまで増えています(グラフ2)。

グラフ2 「在宅勤務・テレワーク」の実施日数の変化

このように緊急事態宣言以降、在宅勤務・テレワークの規模は縮小しています。とはいえ、テレワークの実施状況がコロナ前のレベルに戻ったとまでは言えません。コロナ前より在宅勤務・テレワークを実施している企業は確実に増えています。今回見えてきた課題をどうクリアするか、トライを繰り返しながら、マイナーチェンジを重ねている状態と言えるのではないでしょうか。

テレワークの課題

2008年の調査段階から、在宅勤務・テレワークを運用する際の課題は大きく変化していません。企業調査では、「労働時間管理」「進捗管理」「情報セキュリティー」「コミュニケーション」の四つが、2008年・2015年どちらの調査でも上位に挙げられます。

一方、2015年に行った個人調査では、「仕事と仕事以外の時間の区別」「長時間労働の懸念」「評価が難しい」「コミュニケーション」という課題が上位に挙がります。上司・同僚から見えない場所で働くことや、私生活空間で仕事をすることへの懸念が、こうした調査結果から読み取れます。

では、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い在宅勤務・テレワークが一気に広がったことで、こうした課題に変化は生じるのでしょうか。大きな違いは、これまで一部の企業に限られていた在宅勤務・テレワークの課題が、社会的な課題になったことです。

具体的な課題を見ていきましょう。在宅勤務・テレワークが常態化(特に週3日以上)すると、業務の進捗や仕事の細かな様子などを観察する機会が減ったり、交流や対面コミュニケーションを通じて獲得する情報の量が減ったりするために課題が生じます。ITツールを活用することで、これらの課題をある程度カバーできると思いますが、見えないことで不安感を増大させる従業員もいるのではないかと思います。

また、在宅勤務では通勤時間を削減できますが、一方で家事や育児、介護の負担が増える懸念もあります。職場との関係で不安感が増大し、仕事を頑張り過ぎてしまい、かつ、家事や育児も頑張り過ぎると、どちらの負担も重くなることになりかねません。

在宅勤務・テレワークは、私的な空間が事実上の職場になっていることから、業務遂行のあり方もそれらを踏まえる必要があります。家庭生活を踏まえた業務のあり方や、家庭生活での家事分担のあり方も含めて見直す必要があります。

労組に求められる対応

労働組合としては、労働時間管理や評価制度などの課題に向き合う必要が出てきます。労働時間管理は、労働基準法を踏まえつつも、自分たちの会社の在宅勤務に適した労働時間管理とはどのようなものかを会社と話し合う必要があります。在宅勤務の良い面を生かす意味では柔軟な働き方を認めつつ、一方で例えば、夜10時以降の深夜勤務はさせないなどの歯止めとなるルールを設けるということが考えられます。

評価制度では、労使の信頼関係が大切です。テレワークによって、相手が以前より見えないとしても、互いを信頼し合えるマインドをどのように作ることができるかを労使で話し合うのがよいでしょう。これを機に成果主義を一気に進めようとする会社もあるかもしれませんが、それでは、テレワークで相手が見えない分、人と人とのつながりが、よりドライになって、組織や職場の一体性が薄れる心配があります。そうではなく、信頼関係を築く方向でテレワークを実施できるとよいのではないでしょうか。

そのほか、通勤手当や在宅勤務経費の問題もあります。通勤手当をいっぺんにやめて実費精算にすると、労働者の一時的な持ち出しが増えることがあります。通勤手当を在宅勤務手当と抱き合わせながら、前者を後者に充当するなどの方法を労使で模索する必要がありそうです。

さらに、在宅勤務では、私的空間が事実上の職場になることから、自宅の作業環境について労使が協議する必要も出てくるでしょう。

一方、企業や上司が心掛けるべきものとして考えられるのは、会社や上司は部下を信頼してタスクを与えるということです。それが心配な場合は、仕事の「見える化」や情報共有、コミュニケーションや進捗管理をまめにしながらケアをしていくのが良いと思います。

人材育成が大きな課題に

テレワークの広がりの中で今後とりわけ課題になりそうなのは、人材育成です。

集合研修やOJTが実施できない場合に、ICTツールなどを使ってどう効果的に育成するのか。これまで対面でできていたものができないとすると、育成の方法を棚卸しして、それらを細分化し、研修を細かく受講していくスタイルが考えられます。例えば、大学の講義要綱のように、さまざまな課題の基礎から応用のように講義内容を階層化し、それをマニュアル化、システム化して、受講を促していくことが考えられます。

周囲がサポートしながら、「あなたを育てようとしていますよ」というメッセージを本人に伝えることも大切です。ここでも、上司や先輩からのコミュニケーションが必要だと言えるでしょう。

新型コロナウイルスの影響で、これまで一部の企業に限られていた在宅勤務・テレワークの課題に、多くの企業が取り組まざるを得なくなりました。職種によって程度は異なりますが、在宅勤務の導入・実施は、BCPや従業員の健康確保の観点からも「マスト」ともいえる状況です。制度や枠組みは、実際に取り組みながら考えていかざるを得ません。そこでは、労使の話し合いや各職場での信頼関係・人間関係が重要です。在宅勤務にかかわるさまざまな面での労働組合の役割発揮が期待されています。

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