特集2020.11

テレワーク探求テレワークで労働者の二極化の懸念
分かれ目はどこに?

2020/11/13
「コロナ」前から、企業の中核的人材とアウトソースされる人材の二極化が進んでいた。テレワークはそれにどう影響するのだろうか。
山崎 憲 明治大学経営学部准教授

付加価値の源泉はどこか

「コロナ」前、テレワークに関する話題はグーグルのような大手IT企業がテレワークを取りやめていることでした。そうした企業は、プロジェクト単位で仕事を進めるため、他部署や他企業とのコラボレーションが必要になり、テレワークではそのために必要な対面のコミュニケーションが難しいというのが、その理由でした。

そうした企業にとって付加価値の源泉は、コラボレーションやアイデアの創出です。人事評価も技術的なスキルだけではなく、プロジェクトをまとめ、成功させる能力が重視される流れがありました。そうした評価のあり方は、職種別というより職能制度に近いものだと言えるでしょう。

テレワークが広がったとしても、アイデアを生み出すためのコミュニケーションが重要であることには変わりありません。資金力のある大企業は、テレワークでもコラボレーションができる環境を整えています。ただ、その中でも対面コミュニケーションは一定程度残るはずです。むしろ、対面コミュニケーションの空間を確保するために企業が地方に移転する可能性は十分に考えられます。

中核的人材とアウトソーシング

シリコンバレーの企業は成長の源泉であるプロジェクトを重視する一方、単調な仕事ほどアウトソーシングしてきました。そこで用いられてきたのがテレワークです。背景にあるのは、シリコンバレー周辺の人件費の高騰です。シリコンバレーの企業は、仕事の単価を安くするために、国内の遠く離れた賃金の安い地域の労働者に業務を委託するだけではなく、フィリピンのような国外の労働者に業務をアウトソースしてきました。その内容は、管理職手前の一般社員が行うようなレベルのものも含まれています。

その結果、企業の中に残るのは、企業の付加価値の源泉となるプロジェクトを担う労働者です。そうした中核人材の処遇は上がっていき、アウトソースされる労働者の処遇は下げられていく。

では、外注として切り離される仕事と中核として企業の中に残る仕事の境界線は、どこにあるのでしょうか。コラボレーティブな仕事か、シンプルなタスクの束になっている仕事かが判断の要素になるでしょう。かつての職場における「暗黙知」のようなものもAIによって分析され、より単純な仕事に組み替えられるようになっています。そうした仕事は業務まるごとリモートで社外に外注される可能性が高まっています。

中核的な仕事は、より長期的な戦略を組み立てる仕事として残るはずです。例えば、2019年にグーグルの下請け企業で労働組合が結成された際、組合を結成したエンジニアたちは、自分たちはグーグルの社員と同じ仕事をしているのに処遇の格差が大きすぎると訴えました。彼らは高い技術力を持っているのですが、企業側はプロジェクトへの貢献という意味で中核的人材とは役割が違うのだと訴えました。たとえ、高い技術力を持つ労働者であっても、その技術が長期的に会社の成長の源泉にならないと判断されれば、中核的人材になることはできない、ということです。

アメリカの有名大学は、そうした人材を育成するために、ワークショップやインターンシップを通じてチームワーク力などを育成するカリキュラムを学生たちに提供しています。こうした学生たちがグローバルなIT企業の中核人材となっていきます。採用段階から格差が生まれているのです。

二極化への懸念

テレワークの広がりによって、体力のある大企業はよりお金をかけた高度なシステムを導入し、従業員をそのシステムの中に取り込んでいくでしょう。そこでは、従業員同士があらゆる情報をプラットフォーム上で共有し、企業はその情報をデータベース化し、AIで分析して付加価値の創出につなげています。

「コロナ」前から進んでいたのは、企業の長期的な戦略を担う中核的な人材と、アウトソースされた業務を担う労働者の処遇の二極化でした。「コロナ」でテレワークが広がったことで、その格差が広がる懸念があります。中核的人材にはより高度なシステムを導入する一方で、アウトソースされる業務にはそこまでお金をかけないことで格差が広がっていくということです。

テレワークの広がりを考察する上でも、企業の長期的な成長戦略を踏まえることが欠かせません。テレワークによって通勤時間が減るという話ではなく、中核的な人材と外注化される人材の区分けがより進む可能性があります。中核的な人材は処遇が上がっていく一方で、外注化される人材の処遇は下がり、格差が広がっていく。加えて、中核的人材は処遇は高いけれども、労働時間管理は外されていく。こうした流れを踏まえ、労働組合は対応策を検討する必要があります。

中核的人材の働き方は、いわゆる「ジョブ型」と呼ばれる働き方のイメージとは異なり、定型的ではなく、よりコラボレーションなどが必要な働き方です。「ジョブ型」という言葉でイメージされる働き方と経営側が求める働き方にずれが生じていることに注意が必要です。

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