特集2020.11

テレワーク探求テレワークを巡る男女格差
育児や介護の視点が必要

2020/11/13
テレワークの広がりは、女性労働者にどう影響しているだろうか。テレワークを巡る男女格差などをどう乗り越えるべきか、識者に聞いた。
大沢 真知子 日本女子大学教授

コロナショックの女性への影響

新型コロナウイルスは、第三次産業に大きな影響を及ぼしました。その中でも、業種によって偏りがあり、飲食店・宿泊業や、観光業、小売業、教育・学習支援業などに大きな影響が出ています。これらの業種には女性が多く、女性労働者が大きな影響を受けました。

また、雇用形態別に見ると、非正規労働者に大きな影響が見られました。女性労働者に占める非正規雇用者の割合は2002年から5割を超えています。雇用への影響は、業種の偏りとともに、非正規雇用に強く現れたため、女性労働者が深刻な影響を受けました。

女性就業者数はリーマン・ショック後、順調に増加を続けていました。しかし今年3月に政府の一斉休校要請があり、子どものケアで家庭に戻らざるを得なくなった働く母親が多くいたことなどから、4月の労働力調査を見ると、女性労働者の数は70万人程度減少しました。

いったん労働市場から退出した女性が、仕事に戻れないケースは少なくありません。育児休業を取得して職場に戻ろうとしたところ解雇されてしまい、戻れなくなったというケースもあります。

問題はそのようなことが労働市場の統計に現れてきていないということです。例えば労働市場の状況を見る場合には、失業率が注目されますが、今回は、失業率も、非労働力人口もそれほど変化がないにもかかわらず、非正規労働者の数が大きく減少しているというようなことが起きています。そこを可視化する作業が必要になっています。

テレワークの男女格差

連合総研が4月に行った「第39回勤労者短観 新型コロナウイルス感染症関連緊急報告」の個票を、許可を得て分析しました。調査では、テレワークを実施している人は管理職や専門職のように地位や所得が高い人が多く、地域も東京での実施割合が高く、企業規模が大きいほどテレワークを実施していることがわかりました。

さらに男性の方がテレワークの実施率が高いことがわかりました。正社員の割合だけを見ても、男性正社員のテレワークの実施率は25.3%だった一方、女性正社員の実施率は18.8%でした。

興味深いのは、テレワークの実施率を企業規模別・男女別に見たときです。規模が大きくなるほど実施率は高くなるのですが、小規模や中規模の企業では、男女差はそれほど大きくないのに対して、1000人以上になると男女の格差が大きくなり、3000人以上ではさらに男女差が大きくなることです。テレワークは、働き方や場所を自分で選択できる仕事に向いているのですが、女性の多くは上司からの指示を受けて働く補助的な仕事に就いているため、テレワークが難しいからではないかと思います。

また、情報セキュリティーの問題や自宅でテレワークをする環境が整っていないといった問題、さらには、会社のサーバーやシステムに外部からのアクセスが認められていないなど、環境整備ができていない問題なども指摘されています。

さらに重要なのは、労働時間管理の問題です。日本の場合には、残業時間の上限は設定されましたが、1年に6回まで月45時間を超える残業が認められています。テレワークをすることによって生じるこのような問題を労使できちんと話し合って、長時間労働にならないようにする必要があると思います。

テレワークが進めば、女性が仕事と家庭の両立がしやすくなり、女性の労働参加が進むと見られていたのですが、今回のテレワークの導入の実態を見ると、経済格差や男女格差をむしろ広げる方向に進みました。この格差をどう埋めていくのかが今後の課題です。

性別役割分業の見直し

テレワークを実施する際に、家族的責任を持つ労働者への配慮がないために、女性に二重の負担がかかってしまうという問題も明らかになりました。

一方で、男性からはテレワークによって家族との時間が増えてよかったという声も出ています。家事や育児、介護などのケアワークの負担のバランスの見直しもこの機会に進めていく必要があります。

男性労働者の所得が伸び悩む中で、その妻の所得が家計を支えるために重要な役割を果たすようになっています。女性の雇用が失われ、収入が減ることは家計だけではなく、経済全体にとっても大きなダメージをもたらします。テレワークをうまく進め、女性の労働市場からの退出を防ぎ、雇用を維持する工夫が一層必要になっています。

雇用が不安定な女性の救済を

一方、女性労働者の多くが、感染のリスクが高く雇用が不安定で、テレワークも難しい仕事に就いていることが明らかになりました。早急に経済的に困難な状況に陥っている女性たちを救済する必要があると思います。

今回のコロナ禍で日本の社会に存在している男女格差や、特に非正規の女性が抱える経済的な困難が明らかになりました。これを可視化し対応していくことが今求められていると思います。

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