特集2020.11

テレワーク探求欧米のテレワーク事情
強い労組の存在が成功のポイント

2020/11/13
欧米では「コロナ」前からテレワークの普及が進んできた。成功のためのポイントとは何か。今回の事態で浮かび上がった対応なども紹介する。
木村 富美子 情報労連中央本部国際担当部長

早くから進むテレワーク

欧米の大手通信企業では、比較的早い段階からテレワークがスタートしました。アメリカでは連邦政府職員や大企業を中心に1990年初頭からテレワークが導入されました。通信大手のAT&Tも1994年から制度を開始し、2018年には、管理職の6割超がテレワークを実施し、そのうち、完全在宅勤務が2割、部分在宅勤務(少なくとも週に1日)が3割強という数値が報告されています。2010年にはオバマ政権下で連邦職員を対象としたテレワーク強化法が施行され、今ではテレワークは「普通の働き方」として考えられています。

ヨーロッパでは、ICTを活用して経済成長と雇用を促す目的で2002年に「テレワークに関する枠組み合意」が締結され、欧州各国への普及が進みました。イギリスのブリティッシュテレコム(BT)では制度導入当初は事務職が中心でしたが、やがてコールセンターのオペレーターにも対象を拡大しました。現在、ウイルス感染拡大によりテレワークが増加したことを受け、労働組合は、合理的な理由なく職場が閉鎖されるなどの事態が起きないように注視しています。

オレンジ(旧フランステレコム)では、2008年から翌年にかけて従業員35人が自殺するという事象が起こり、全社を挙げて従業員の健康と働き方改善を検討しました。その結果、ワーク・ライフ・バランスを重視するための働き方の一つとして、2009年から「週に2日以上は出社する」というルールでテレワークがスタートしました。2017年には改正労働法に「つながらない権利」が盛り込まれ、従業員50人以上の企業では勤務時間外や休日に、仕事上のメールや電話への対応をシャットダウンすることが義務付けられました。オレンジがUNIと締結したグローバル協定では「つながらない権利」は国内の従業員に加えて、契約請負業者と子会社も対象になっています。

強い労組の存在がポイント

さて、これら通信企業でテレワークが普及した背景には、大きく二つの要因があると考えます。一つは、情報通信産業という特性上、機器や従業員のスキル面で優位性があったこと、そして二つ目は、しっかりした労使関係の存在です。BTの従業員が加盟する英国通信労組は自社でテレワークが普及した要因の一つに「強い労働組合の存在」を挙げています。テレワークを制度として労使で取り決め、労使の合意に基づいて運用を進めたことがポイントです。

多くの国ではウイルス感染拡大に伴い、急ごしらえでテレワークを始めた職場が多く、運用と並行して制度を設計することになりました。テレワークに関する法制度がない中で普及したことを受けて、アルゼンチンでは新たに「テレワーク法」が施行されました。テレワーク労働者の権利確保を目的として8月に施行されたものです。法律には「つながらない権利」や、AIによる労働者監視の禁止等が明文化されています。ただし、現在の法律では対象範囲が民間部門に限られ、法律の中身が各企業に浸透できていない等の課題もあり、労働組合は改善に向けて取り組んでいくと述べています。

国際的なルール策定も必要

10月、国際労働組合総連合(ITUC)は、テレワークに関するガイドラインを発表しました、在宅勤務者の訓練機会・キャリア開発確保、プライバシーの権利保護などの指針をまとめたものです(注)。

また、情報労連が加盟するUNIは、テレワークが労働者に与えるマイナス影響について警鐘を鳴らしています。ホフマン書記長は「多くの仕事は職場に戻らないかもしれない。また、職場そのものを閉鎖しようとする使用者もいるだろう。しかし、働く場所の選択は労働者の権利であり、職場に戻る権利が脅かされてはならない」と述べています。

新型コロナウイルス感染拡大を機に一気に拡大したテレワークですが、さまざまな課題も指摘されています。テレワークで働く労働者に不利益が生じないよう、国際的なルール策定と順守、そして、労使合意に基づく適切な運用が必要です。

注:ITUCテレワークガイドライン(英文)

https://www.ituc-csi.org/ituc-legal-guide-telework?lang=en

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