特集2018.06

#MeToo ハラスメントのない職場へ「男の絆」から生まれるセクハラ
「ホモソーシャル」を知っていますか

2018/06/13
男性が男性に対して行うセクハラもある。その背景には、男性だけで公的な社会を独占しようとする「ホモソーシャルな社会」のあり方がある。女性に対するセクハラとのかかわりなどについて聞いた。
前川 直哉 福島大学総合教育研究センター 特任准教授
まえかわ なおや 灘中学校・高等学校教諭などを経て現職。ダイバーシティふくしま共同代表。著書に『男の絆─明治の学生からボーイズ・ラブまで』(筑摩書房)、『〈男性同性愛者〉の社会史─アイデンティティの受容/クローゼットへの解放』(作品社)など

─男性から男性に対するセクハラとは?

同性愛的なセクハラが一般的にイメージされやすいでしょう。例えば、男性が同性に対して権力関係を利用して関係を迫るケース。被害者が男性であることから、女性とは異なる被害の訴えづらさがあります。

もう一つは、ホモソーシャルなセクハラというものがあります。これは同性愛的なセクハラとは異なります。例えば、「下ネタ」を無理強いしたり、性風俗やキャバクラに無理やり連れて行ったり、新入社員に裸踊りをさせたり。こうした言動がホモソーシャルなセクハラです。これらも当然セクハラに当たります。

─ホモソーシャルとは何でしょうか。

ホモソーシャル(男性ホモソーシャル)とは、男性同士の結び付きや“男の絆”を意味する言葉です。ホモソーシャルな社会では、男性が公的な社会を担う性別だとされます。男性たちは“男の絆”で公的な社会を独占しようとします。

そうした社会では男性同士は深く結び合っています。しかし、その関係性の中で同性愛は否定されます。恋愛は私的な領域で女性がするもの。公的な社会での男性同士の結び付きは、恋愛とは違う特別な関係性でなければいけません。その関係は「友情」であるとされ、男同士の友情こそ尊いものとされます。

ジェンダー研究の分野ではホモソーシャルには次の二つの特徴があると指摘されています。一つは、ミソジニー(女性蔑視)。もう一つは、ホモフォビア(同性愛嫌悪)です。ホモソーシャルな社会では、女性は公的な場からはじき出され、男性は同性愛者でないことを証明しないといけません。

─ホモソーシャルなセクハラはそうした中で起きる─。

異性愛の下ネタを強要したり、性風俗やキャバクラなどに無理やり連れて行ったりするのは、「自分たちは同性愛者ではない」ことを証明するのに都合がいいからです。また、そうした行動は、男性が性における能動的な主体であることも証明できます。「自分たちは性の対象になる側ではなく、性を支配し、消費する立場にある」と示すことができます。つまり、性風俗などに無理やり連れていく行動は、ミソジニーとホモフォビアの両方を同時に証明する行為だと言えます。

─現代の日本はホモソーシャルな社会でしょうか。

日本のジェンダーギャップ指数はいまだに低いです。特に政治や経済の分野では男社会が残っています。

財務省のセクハラ事件を見ても、男社会の中にいる男性は、女性たちを自分たちと同じ社会を担う一員とみなしていないようです。女性は、家事や育児を担う人か、恋愛やセックスの対象。社会を一緒に良くしていく対等なパートナーとみなしていません。そう捉える男性たちが“男の絆”を守ろうとしています。

─“男の絆”はなぜ守られてきたのでしょう。

答えは一つではありません。一つ目は、性別役割分業で日本経済がある程度回ってきてしまったこと。二つ目は、ホモソーシャルが男性にとって都合がよかったこと。男性というだけで出世がしやすい。下駄を履かせてもらえます。

三つ目は、企業や行政の中心にいる人たちに、性別役割分業観が強いことです。東大や京大の合格者には男子校出身者が多くいます。男子校出身者の方が性別役割分業を肯定する割合が高いというアンケート結果があります。合格者の中には、専業主婦がいる高所得世帯の出身者も多くいます。社会の中枢を担う人たちの中に、性別役割分業観が強い人たちが多くいることでホモソーシャルが再生産されていると考えています。

─ホモソーシャルな社会をどう変えていくべきでしょうか。

根っこにあるのは性別役割分業観です。男女がともに働き、育児や介護などのケアに従事することが絶対に必要です。同時に、一人ひとりが同じ重みを持つ主体だと理解することです。男性がホモソーシャルの価値観を内面化すると、女性を恋愛やセックスの対象か、ケアに従事する人としか捉えられなくなります。私はこれを「男子校シンドローム」と呼んでいます。そうではなく、自分と同じように仕事し、社会を担う対等なパートナーだと認識しなければいけません。

必要なのは「男子校シンドローム」を取り除くこと。つまり、日本社会を「共学化」することです。具体的には、クオータ制の導入など、ポジティブアクションを進めることです。役割を担う女性が増えてくれば、同じ社会を担うパートナーという意識が根付くはずです。

─男性は下駄を脱ぐでしょうか。

ホモソーシャルな社会に苦しんでいる男性もいます。下駄を脱ぐことで、ジェンダー規範から解放されるというのが一つ。

それでも、ホモソーシャルな社会を守りたい人は一定数残るでしょう。でも、そうした人には、生まれた性別でライフコースが決まってしまうような社会でいいですかと問い掛けたい。江戸時代は生まれで身分が決まりました。人種で差別される歴史もありました。近代は、そうした差別をなくしてきた時代でした。男性たちもその恩恵を受けています。

不条理な差別はなくした方が、一人ひとりが暮らしやすくなります。差別の解消は、男性にとっても暮らしやすい社会をもたらします。

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