特集2018.06

#MeToo ハラスメントのない職場へセクハラ相談担当者が知っておきたい
相談対応のポイント

2018/06/13
企業の人事担当者や労働組合役員など、セクハラ相談を受ける際に気を付けるポイントは何か。セクハラ事件も数多く手掛けている新村弁護士に聞いた。
新村 響子 弁護士

─セクハラに関して知っておきたい基本的な法的ルールは?

男女雇用機会均等法11条が事業主に対する措置義務を定めています。この規定は、性的な言動によって、労働者が不利益を受けたり、就業環境が害されたりすることのないよう、事業主は必要な措置を講じなければならないと定めています。

事業主が適切な措置を図るために、均等法11条2項は指針を定めるとしています。この「セクハラ指針」は、事業主が雇用管理上講ずべき措置として、「周知・啓発」「相談体制の整備」など、10項目を定めています(下表参照)。

均等法に基づいて事業主が雇用管理上講ずべき措置

1 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発

(1) 職場におけるセクシュアルハラスメントの内容・セクシュアルハラスメントがあってはならない旨の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。

(2) セクシュアルハラスメントの行為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。

2 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

(3) 相談窓口をあらかじめ定めること。

(4) 相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。また、広く相談に対応すること。

3 職場におけるセクシュアルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

(5) 事実関係を迅速かつ正確に確認すること。

(6) 事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと。

(7) 事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと。

(8) 再発防止に向けた措置を講ずること。(事実が確認できなかった場合も同様)

4 1から3までの措置と併せて講ずべき措置

(9) 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること。

(10) 相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。

─実際の裁判例から知っておきたいポイントはありますか。

セクハラの裁判例では、「セクハラの事実はなかった」「同意の上だった」という主張が相手から必ず出てきます。P大学(セクハラ)事件という裁判例があります。加害者の大学教授は、被害者の准教授の女性を居酒屋に誘って食事をしました。その際、加害者の教授は、女性の太ももに手を置いたり、女性を「おまえ」と呼んで年齢や婚姻の有無を聞いたり、帰りの地下鉄車内では二の腕をつかんだりしました。

この事件では、一審と二審で判断が分かれました。一審は「セクハラはなかった」という判決を出しました。准教授の女性が飲酒の誘いに応じたこと、その後も席を立たずに最後まで同席したこと。帰宅する際も同じルートで移動し、別れ際には教授に握手を求め、その後に感謝のメールを送ったこと。こうしたことを理由にセクハラはなかったとしました。

しかし、二審の高裁は、「セクハラがあった」と認定しました。判決は准教授の女性が教授の誘いに応じたのは、教授に発言力があり、それを拒否すると自分の立場に不利益が生じかねないと感じたからだと指摘しました。

セクハラ事件では、セクハラ被害のあったその場で、被害者が拒否したり、糾弾したりできないことが多いです。しかし、この裁判例からわかる通り、それを理由にセクハラはなかったとは言えません。セクハラの相談担当者は、こうした被害者心理を知ることが大切です。

─セクハラ相談の担当者が気を付けるべき点は?

この裁判例のように、相談対応者が被害者心理をわかっていない例が多いのではないかと思います。先入観で「なぜ拒否しなかったの」などと捉えてしまう。そのため、二次被害が生じるケースに数多く接しています。

確かに、女性であっても、「私だったら逃げるのに、なぜそうしなかったのか」と反応する人もいます。あるいは、加害者を知っていて、「あの人はそんなことをするはずがない」と思うこともあります。でも、だからといって相談者に対して、「信じられない」という対応を取るのはよくありません。

二次被害を生じさせないためには、疑ってかかったり、興味を持ったりするような聞き方をしないことです。相談者は動揺していて、核心的な言葉がなかなか出てこない場合もあります。最後まで話を聞くことです。先入観で、「たいしたことではない」と決めつけないことも大切です。

プライバシーへの配慮も重要です。相談を受けたからといって、相談者本人の了解を得ずに加害者や第三者への聞き取り調査を始めてはいけません。

精神的に追い詰められている相談者の場合、専門家につなぐことも相談担当者の役割として求められます。

─事実確認の段階で気を付けるべきことは?

第三者に聴取する際には、その人のプライバシーを守ることも大切です。聴取の内容が加害者に伝わるようなことは避けないといけません。加害者の言い分を聞く機会を設けることも重要です。

ヒアリングから調査手続きに入ると、双方の言い分に矛盾がないかどうか、メールなどの証拠を当たることになります。ただ、セクハラは密室で起きるケースが多いです。証拠がなければセクハラを認定できないというのでは、よくありません。セクハラが起きたシチュエーションや前後のやり取りなどに関する双方の話を聞いて、判断する必要が出てきます。

─セクハラにはグレーゾーンも多いです。

触られたり、性的な言葉を掛けられたりというのではなく、ジロジロ見られているような気がするくらいだとセクハラを認定できないケースがあるのもやむを得ません。しかし、そのような訴えが出てくるのは、職場環境や人間関係で何かしらの問題が生じているからです。被害者からの訴えを聞いた上で、何かしらの配慮措置を検討してもいいかもしれません。

また、飲み会でデュエットさせられるとか、女性だけお酌をさせられるとか、職場の風土にかかわる相談であれば、匿名でアンケートを取ったり、研修やセミナーを実施したり、環境改善に取り組むといいと思います。

─セクハラ加害者への対応はどうすべきでしょう。

セクハラがあったと認定した場合は、就業規則などに沿って厳正に対応することが大切です。加害者が影響力のある人物だからといって、対応が甘くなるようなことがあってはいけません。

近年の裁判例では、セクハラの窓口担当者の対応が問われる例が増えています。慰謝料が認められたケースで、セクハラに対して120万円、窓口担当者の対応の悪さに対して80万円のように、窓口担当者の不法行為が認められたケースがあります。公務員の事例でも、副市長のセクハラを被害者の上司の女性職員が止めなかったという理由で、女性上司が懲戒処分を受けた事例もあります。動くべき人が動かないことに対して、責任を問う流れが強まっています。

─取引先からのセクハラにはどう対応すべきでしょうか。

取引先への対応は難しいのはわかりますが、やはり会社が「盾」になって取引先に抗議するなどの対応を取らないといけません。被害者から相談があったにもかかわらず、適切な対応を取らないとすれば、会社の法的責任が問われます。

─セクハラを発生させない職場づくりに向けて大切なことは何でしょうか。

やはり、意識の持ち方によって変わってくると思います。2016年の労働政策研究・研修機構の調査(「妊娠等を理由とする不利益取扱い及びセクシュアルハラスメントに関する実態調査」)が、セクハラの態様を調べています。これによると、「容姿や年齢、身体的特徴について話題にされた」「性的な話や、質問をされた」「酒席等でお酌やデュエットを強要された、席を指定された」のように、日常的なセクハラが回答の上位に並びました。セクハラが起きているのは、こうした雰囲気が日常的にある企業です。こうした雰囲気が許されていると、強制わいせつに当たるセクハラも起きやすくなります。

セクハラの損害賠償額は年々、高額化しています。セクハラなどのハラスメントのない職場の方が、採用力や企業力が高まります。「セクハラなんてリスクじゃない」という企業はこれからの時代を生き残れないと思います。

─労働組合に期待することは?

労働組合はセクハラに断固反対するというメッセージをもっと出してほしいです。セクハラの相談窓口として機能をさらに発揮するためには、窓口担当者の顔が見えるようにしたり、セクハラの啓発活動を継続して行ったりして、信頼度を高めることが大切だと思います。

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