「コロナ」から考える政治と生活深刻化する外国人労働問題
日本の有権者はどう向き合うべきか
実質的な債務労働
技能実習生を巡っては、「コロナ前」から深刻な問題が起きていました。コロナ禍でも、不当に低い賃金、パワハラ、セクハラ、強制帰国などの問題は起こり続けています。状況はいっそう深刻化しています。
技能実習生の問題を知らない人からすると、「日本人も大変」「仕事がないなら、一時帰国すればいい」と考える人もいるでしょう。しかし、現実はそんなものではありません。
例えばベトナムからの技能実習生は、現地の送り出し機関に80万〜100万円の費用を支払って来日しています。これは現地の平均年収の3〜4年分にあたります。その費用は、親族や銀行などからの借金でまかなっています。技能実習生たちは、このお金を原則3年間の技能実習の期間で稼いで、返済できるようにしないといけません。
この仕組みが、技能実習生を非常に弱い立場に追い込んでいます。これは債務を返済するために労働を強制される「債務労働」に近い状態です。この仕組みを変えなければ、技能実習生の問題は解決しません。
コロナ禍では、生活が苦しくなり、失踪した技能実習生が盗みを働いたり、盗品の疑いのある豚を違法に解体した事件が報道されています。背景を知らない人からすれば「けしからん」としか思わないかもしれません。でも、私たちの社会が技能実習制度という「奴隷的制度」を作っておいて、そのせいで困窮してどうしようもなくなって逃げ出した外国人労働者の法律違反を一方的に責めるのはおかしいと思います。実質的な債務労働を生み出す仕組みを変えなければ、根本的な問題は解決しません。技能実習制度は廃止すべきです。
制度や情報が届かない
政府は、新型コロナウイルスの影響を受けた技能実習生への支援策として、別の職種に「転職」できる制度をつくりました。技能実習生にも、人手不足に悩む受け入れ先にも、一定の効果がある施策で、法務省のこれまでの対策の中では一歩踏み込んだものになっています。
ですが、筋論としてはやはりおかしい。もし本当に、技能実習制度が「技術移転を通じた国際貢献」の制度なら、収入のなくなった実習生に生活費を支給し、返済予定の借金分の補填を行うべきです。しかし、そういった話は政府から少しも出てきません。
技能実習生は雇用保険を支払っているので、雇用保険を利用できます。しかし、ハローワークがきちんと対応してくれないケースが少なくありません。また、技能実習生や留学生が仕事を失った結果、住む場所を失ってしまう事例も後を絶ちません。技能実習生は生活保護を利用できません。失業保険とともに、住宅や生活費に関するセーフティーネットを強化する必要があります。
そもそも、さまざまな支援策が技能実習生に対して使われていなかったり、情報として伝わっていなかったりする問題もあります。技能実習生に対して雇用調整助成金を利用したという話をあまり聞いたことがありません。情報が届いていなかったため、10万円の特別定額給付金を受け取れなかった実習生も相当数いるはずです。
日本には外国人労働者がたくさん働いていて、日本語だけでは必要な情報が届かないという現状を、行政機関も一般の国民も知る必要があると思います。多言語での案内と、行政窓口への通訳の配置などを大幅に拡充する必要があります。
差別意識と粘り強く戦う
日本はこれから、少子高齢化で労働力人口が減少していきます。若年労働人口の減少がさらに進みます。特に農村部は深刻です。外国人労働者に来てもらわないと地域経済が成り立たなくなっているところも出てきています。
日本の将来を考えるなら、外国人労働者を一定程度受け入れる必要があります。しかし、放っておいても外国人労働者が日本に集まってくれる時代ではもはやありません。アジアとの賃金格差は埋まりつつあり、日本以外にも魅力的な出稼ぎ先はあります。日本の労働環境がひどさはすでに各国に広まっています。今のような「奴隷的制度」を続けていれば、日本は人権問題の観点からも孤立し、その上で、将来的な存立すら危うくなってしまうでしょう。
こうした制度を社会的に許容しているのは、日本の有権者です。「自分には関係ない」ではなく、そんな国を作っているのは自分だという意識を持ち、投票行動などに反映してほしいと思います。
外国人労働者に対する残酷な仕打ちの背景には、残念ながら明治以来、日本社会に根を下ろした構造的な差別意識や排外主義が残っていると言わざるを得ません。そうでなければ、報道されているようなひどい仕打ちを技能実習生などにできるでしょうか。日本がかつてアジア諸国を侵略し、労働者を強制連行して強制労働に従事させたことが、この問題とどこか共通している気がします。借金を抱えて雇用主の言うことを聞かざるを得ない弱い立場の労働者が目の前にいる時、いつしかアジアに対する偏見や差別意識が呼び起こされて、信じられないようなひどい仕打ちをしてしまうのです。
国は、こうした状態を変えていかなければいけませんが、真逆の対応を取り続けています。国は、外国人を管理の対象とする考え方を変えようとしません。
こうした状況に対して、労働組合は外国人労働者とともに労働条件の改善を求めて声を上げるだけではなく、職場や地域の中に残る差別意識を解消する取り組みを展開してほしいと思います。労働組合が差別意識と粘り強く戦うことをしなければ、日本社会が本当に変わることはありません。期待しています。