特集2021.01-02

「コロナ」から考える政治と生活「コロナ」で露呈した企業体質
現場から声を上げれば変えられる

2021/01/15
働く人たちへの政府の支援策は、当事者にきちんと届いたのか。現場から見えてきた問題点とともに、働く人たちと政治とのかかわりについて聞いた。
小林 美希 労働経済ジャーナリスト

人件費削減で利益を上げる

コロナ禍では、非正規雇用労働者が真っ先に雇い止めなどに直面しました。特に、飲食店やアパレル、観光業などの非正規雇用の女性労働者がそうでした。中でも、子育て中の女性労働者が不利な状況に追い込まれました。子どもを保育園に入れたものの、コロナ禍の影響で仕事を失った結果、保育園を利用できなくなり、そのせいで仕事探しがますます難しくなったという人もいました。

育児や介護、医療といったケアを提供する側の労働環境の問題も露呈しました。認可保育園などの場合、新型コロナウイルスの影響で休園したり、保育士を休ませたりしても、保育士の賃金を100%支給するよう、運営費用は行政から事業者に満額渡されていました。ところが、運営費用を受け取っておきながら、保育士の賃金に使わない事業者が出てきました。保育士を休ませても、その間の賃金を支払わず、その分の運営費を園の「利益」に当てるのです。保育士をあえて休ませて、「利益」を増やそうとする事業者もいました。

この問題は国会でも取り上げられ、国は通達を出して、自治体に監督を強めるよう通知しました。その効果もあって事態は改善しましたが、いまだ対応しない事業者もいます。

こうした問題はコロナ以前からありました。自治体から支給される運営費を人件費以外に流用できる仕組みがあるので、保育士の賃金がモデルケースより大幅に低くなってしまうのです。

人件費を削減して「利益」を上げようとする企業体質がコロナ禍でも露呈したと言えます。

企業経由の対策の限界

他方、小学校などが休校し、そのせいで仕事を休まざるを得なくなった保護者を支援するための助成金制度(新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金)が創設されたものの、ほとんど活用されていません。その理由は、この制度を利用するためには、企業が休校に対応するための新たな有給の休暇を設けることが要件の一つになっているからです。会社が制度創設の手続きなどの面倒を嫌って、従業員からの申し出があっても、それを断るケースが相次いでいます。

雇用調整助成金や、「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金」(休業支援金)も同じです。休業支援金は、企業から休業手当を受け取れない労働者に対し、国が直接支援金を給付するために創設された制度でしたが、申請に協力しない企業が数多くでてきたのです。そのため、一定の要件を満たせば、企業の協力がなくても支援金を受け取れるように制度が見直されました。

こうした事実から見えてくるのは、企業や事業者を経由して労働者を救済する方法の限界です。企業の本音は、労働者を都合良く使いたい、面倒なことまでして制度を使いたくないということ。労働者のことを考えない企業がどれほどあるのか、コロナ禍で浮かび上がったと言えます。こんなことを続けていては、持続可能な職場づくりは難しいと感じています。

労働組合の役割

こうした課題に対応するには、労働者個人が会社を経由せず、行政に直接申請し、支援を受けられる方法を広げる必要があるでしょう。

ただ、それだけではなく、働く人たちが声を上げて、会社に制度を利用させるという方法もあります。コロナ禍では、保育士が労働組合に加入し、100%の賃金保障を勝ち取ったケースがいくつも出てきました。話を聞くと、「労働組合に入って仲間ができたからこそ、成果を勝ち取ることができた」と、一様に答えてくれました。労働組合に入って仲間とともにワークルールなどを学びながら、経営者と対等な立場で話し合い、職場環境を改善していく。こうした事例が広がっていくことを期待しています。

介護や保育、医療などのケアワーカーの働き方には、国の制度が大きくかかわっています。就労環境の改善には、政治の関与が不可欠です。働く人たちは、国が定めた制度のために自分たちが厳しい状況に追い込まれていることを知り、現場から声を上げて、問題を表面化させてほしいと思います。その声をきちんと受け止め、動いてくれる政治家を応援する。そのことに尽きます。

ケアワーカーの労働環境は、当事者だけの問題にとどまりません。ケアワーカーがいなければ、働く人たちの生活が成り立たなくなっています。働く人たちの生活を支える人を支える必要があります。その意味でも、政治への働き掛けが求められます。

気付きの機会を提供する

政治に働き掛けるといっても、不満や怒りのエネルギーがないと、なかなか行動につながりません。まずは疑問を持つこと。「これはおかしい」と思うところから運動は始まります。例えば、保育士であれば、賃金が満額支払われないのはなぜだろうと疑問を持つこと。この件では、私も「東洋経済オンライン」などで繰り返し問題を指摘しました。労働組合などが、制度の問題点をわかりやすく説明し、その気付きの機会を提供することが、運動の広がりを生み出すのだと思います。また、国会での議論をチェックし、かみ砕いて伝えることも大切です。

この間、国は、企業の側を向いた政治を続けて、現場の労働者を犠牲にしてきました。現場の視点から問題点を検証することが欠かせません。現場の声を横につなげ、それを政治に届けていく。労働組合の役割は大きいと言えます。

特集 2021.01-02「コロナ」から考える政治と生活
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