常見陽平のはたらく道2021.11

広がる「親ガチャ」問題
格差の固定化をどう防ぐか

2021/11/12
親の年収や資産によって人生が変わってしまうという「親ガチャ」問題。この格差社会にどう立ち向かうのか。

どんな親の元に生まれるかで人生が決まってしまうのではないか。「親ガチャ」問題が注目されている。カプセル入り玩具「ガチャガチャ」になぞらえたものである。秋の臨時国会の代表質問でも、与党の議員が取り上げ話題となった。

(生まれるときは)子どもは親を選ぶことができない。これ自体は、昔も今も変わらない人類の必然だ。しかし、その親の年収や資産、価値観の格差が拡大する中、「親ガチャ」がモノを言う。カプセル玩具なら、何度も回すことができるが、家族はそういうわけにはいかない。

この言葉と出合ったときに、私は不快感を抱くとともに、社会に対する怒りがこみ上げてきた。ただ、必ずしも否定的な声ばかりではないようだ。むしろ「親ガチャ」と軽く言ってしまった方が吹っ切れるし、割り切れるのだと。確かに「保護者の年収、価値観の差による格差の固定化」と言われるよりは、「親ガチャ」と言われた方が気は楽かもしれない。しかし、言葉を軽くしても、問題の重さは変わらない。

例によって弱者の問題について議論すると「自己責任論」が飛び出す。親がどうであれ、努力して幸せになれという論理である。確かに、芸能人やスポーツ選手など、努力ではい上がった人はいる。

ただ、この「努力」という前提すら親によって変わるのではないかというのが、「親ガチャ」論争の本質だ。「成り上がり」の象徴とされる、芸能、スポーツでの成功者も今や、幼い頃から良い指導者のもとで育てられたかどうかがものをいう。

何より、教育が問題だ。選抜度の高い大学に進むためには、中高一貫校が有利とされる。学費が高額であることは言うまでもないが、進学するための塾のお金もかさむ。新型コロナウイルスショックによる経済的ダメージや、オンライン講義化で大学の学費軽減論が話題となった。日本の大学にかかる学費以上の教育費を負担できる家庭もいる。まさに「親ガチャ」そのものではないか。価値観の親ガチャも存在する。たとえば、2019年の東大入学式で社会学者上野千鶴子氏が訴えた「女の子だから」という理由で、東大など難関大学受験を諦めさせる親などがそうだ。

格差社会をどうするのか、さらに努力は報われるものなのかなど、論点はつきない。わが国だけの問題でもない。しかし、生まれた家庭で大きな差が出て、しかもそれが固定化する社会で夢や希望を持つのは困難だ。

まず、この「親ガチャ」問題を自分事として捉えたい。格差を是正するための最適なアクションを模索したい。特に若者に対して、チャンス、さらには金銭的なものも含めた具体的な支援を考えたい。選択肢の提示だけでなく、それが努力で実現される機会をつくりたい。

「親ガチャ」という軽い言葉で格差を笑い飛ばす風潮は是か非か。一瞬、元気になるだけでは、ドロップキャンディや滋養強壮剤と一緒である。国だけでなく、企業レベルでの支援は何ができるのか、考えたい。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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