常見陽平のはたらく道2024.03

「ソフト老害」
「ゆるブラック管理職」を超えて

2024/03/13
春になると理想の上司とは何かという議論が盛り上がる。次々と現象化する世代間ギャップをどう乗り越えるか?

「ソフト老害」「ゆるブラック」という言葉に注目が集まっている。SNSでもよくバズる。「ソフト老害」は、20代後半〜40代という年齢的には決して老いていない層が職場で老害と化している現象を指す。「ゆるブラック」は、労働法制の変化や働き方改革などにより、労働時間もパワハラも減った一方で、やりがいや成長感のない職場が増えているという現象を指す。

ともに新語であり、ややあおり気味の言説ではある。ただ、職場の問題、特に上司や先輩のあり方に関する問題であることを認識しなくてはならない。いかにもネットで消費されるような現象のようで、人材マネジメントの変化を物語っている。

「ソフト老害」が生まれるのは世代間ギャップの間隔が短く、細かくなっているからだ。若い人ほど、多様なコミュニケーション手段を使いこなすし、ハラスメントをはじめ、コンプライアンスについて、問題意識を持っている。それに対して、従来は「老害」と言われなかったはずの年齢層の人が十分に常識をアップデートできていないがゆえに老害化する。年齢にとらわれずに管理職に登用する人事制度が広がりつつあることの弊害でもある。若くして出世してしまった人が老害化することもある。

「ゆるブラック」問題は、あたかも若者がブラック企業を望んでいるかのようなミスリードにつながっている点に注意しなくてはならない。ただ、労働時間や厳しい指導、難易度も負荷も高い仕事に代わるような、やりがい、成長感のある仕事を、つくりだすことができていないという問題であり、つまりは上司・先輩の問題なのである。

春だ。新入社員がやってくる。毎年、この時期になると理想の上司とは何かという調査結果や、それを基にした議論が盛り上がる。この10年くらいの明確な傾向は、上意下達型、さらには威圧的に接するタイプの上司は好かれないということだ。逆に、部下のよいところを探す、強みを伸ばす、動機づけをすることができる上司が支持されている。

これは、昨今の芸能スキャンダルを読み解く補助線にもなる。いじめ、性暴力や性加害など絶句するトラブルが報じられる。詳述はしないが、これらは同質的な環境の下、明確な上下関係などの下に起こってしまう問題だ。また、コンプライアンスに関する意識も希薄だったと言わざるを得ない。芸能スキャンダルと、自らの職場はまったく異質のようで、意識しなくてはならない問題は一緒だ。相手に対するリスペクトが必要なのである。職場は人員構成が多様化している。そのことを理解し、対応できない上司・先輩は失脚する。

一方で、理想の上司像を押し付けられる上司・先輩もまた大変な状況におかれている。上司の仕事は人材マネジメントだけではない。難易度の高いミッションを担当しなければならない。高い戦略性も求められる。そんな中、さまざまな事情を抱えた多様な人材をマネジメントしていくのは困難である。上司を追い込んでしまうのも問題だ。管理職へのケアも必要だ。

世代間でたたき合う職場にしてはいけない。理想の上司について考えるこの時期、相手に対する想像力を大切にしたい。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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