常見陽平のはたらく道2024.04

「バブル期に戻りたい」のか?

2024/04/10
日経平均株価がバブル期を超え、昭和と令和を比べるドラマが話題になっている。昔と今とどちらがよいのだろうか。

「バブル期」に注目が集まっている。2024年3月、日経平均が過去最高値を更新した。春闘では大手企業を中心に満額回答が続いた。新卒初任給も月25万円以上という企業も増えてきた。中堅・中小企業や非正規雇用への波及などの課題は残すものの、賃上げは進んでいる。物価も高騰しているが、経済の好循環への期待も高まっている。ついに日銀もゼロ金利政策の解除の方針を生み出した。バブル期と令和の会社と社会の違いにスポットをあてたドラマ『不適切にもほどがある!』もブームになっている。

もっとも「バブル期」という言葉に違和感、嫌悪感を抱く人もいることだろう。「バブル」はポジティブな言葉とは言えない。地に足の着いていないギラついた浮かれた空気、この時期に大量に入社した「使えない」上司や先輩のことを想起する人もいるのではないか。「1万円札を見せびらかしてタクシーを止めた」「銀行がいくらでもお金を貸してくれたので不動産を買いあさった」「内定者拘束旅行でハワイに行った」「タダで飲み食いできタクシー券が出た」「ディスコで踊りまくった」など、実話なのか都市伝説なのかよくわからない話もある。さすがに誰もがこのような日々を毎日送っていたわけではないだろうが、一部は実話であることが怖い。

さて、バブル期の働き方について考えてみよう。「昔はよかった」と言い切れるだろうか。80年代後半はまだ労働時間も長く、週休2日制も浸透・定着していたわけではなかった。男女雇用機会均等法が制定、施行はされていたものの、男社会だった。セクハラという言葉が世に広がったのもこの頃だった。さまざまなハラスメントが横行していた。大手企業では会社は一生勤め上げるもので、社員が転職する際には上司の評価が下がるという企業もあった。辞めていく社員の中には「二度と会社の門をくぐれると思うな」と言われた人もいた。過労死が問題となった時代でもある。書いているだけで息苦しくなってきた。明らかに働く環境は改善されているかのように見える。

仕事の進め方でいうならば、まだパソコンは一人1台という時代ではなかったし、インターネットも広がっていなかった。手書きのメモを清書し、レイアウトし直し、企画書に仕上げるサービスなども存在していた。携帯電話も一般には普及していなかった。何でもスマホで処理できる現代の方が明らかに便利には感じる。

一方で、本当にバブル期は悪だったのか。現代は素晴らしいのか。私たちは相変わらず仕事に追われている。職場の民主主義、平等も必ずしも実現できてはいない。格差も広がった。ITが発展した割に、仕事はますます増えているようにも見える。「24時間働けますか?」というバブル期のCMソングを過労死礼賛のスローガンだと一蹴したくなるが、スマホで24時間、仕事に追われる時代となっている。なんせ、誰でもヒーロー、ヒロインになれるかもしれない、豊かになれるかもしれないという夢はあった。たとえ、それが泡であったとしても。現在、株価も賃金も上がっているが、豊かになっているという実感がそこにはあるのか。

バブル期のあと待っていたのは、喪失の時代だった。今のバブル風の熱狂の先に何があるのか。過去を振り返りつつ、冷静になりたい。さて、豊かな社会、時代とは何だろうか。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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