どうする? 社会保障
めざすべきビジョンを再考する老朽化が進む水道インフラ
深刻化する人手不足
適正な価格転嫁が必要


書記長
──水道インフラの老朽化などの現状について教えてください。
水道管の耐用年数は公営企業法で40年と定められています。2021年度時点で、法定耐用年数を超えた水道管の延長は16万4000キロに及んでいます。これは全国の水道管総延長74万2000キロのおおよそ5分の1に相当します。多くの水道管が老朽化しており、早急な更新が求められています。下水管についても同様で、水道インフラの維持や更新が重要な課題となっています。
法定耐用年数を超えたものを含め、水道管の総延長を60年かけて更新するには年間1.1%の更新率が必要ですが、2021年度の実績は0.64%にとどまっています。現在の約2倍のペースで更新を進めなければ、老朽化に対応できません。このままでは漏水事故などが増えるリスクが高まります。また、耐震化を進めるのであれば、更新率をさらに高める必要があります。
更新率が1%に満たない理由の一つは、建設業界の人手不足です。水道管の工事を担う人手が不足しており、工事の進捗に大きな影響を与えています。もう一つの理由は、自治体が発注する公共工事の競争入札で入札不調が増えていることです。背景には、設計単価の低さがあります。資材価格の高騰や労務単価の上昇に設計単価が追いついておらず、入札不調が増加しています。国や自治体は設計単価の見直しを進めていますが、目に見えた効果は出ていません。
──水道インフラの維持に、どのようなことが課題になっていますか?
今、お話しした課題に加えて、水道インフラにかかわる自治体の職員数が大幅に削減されてきたことも大きな課題です。水道・下水道の職場では2000年代初頭の小泉構造改革以来、採用の抑制や業務の委託化が進み、職員が大幅に減らされました。水道にかかわる職員は、1980年頃には全国で約7万5000人がいましたが、その数は約4割減少し、現在では5万人を下回る状況です。下水道はさらに減りました。そのため、たとえ十分な予算があったとしても今の倍のペースで更新を進めることはとてもかないません。
職員数の減少に伴い、1人当たりの業務量が増加しています。削減された職員の業務は、外部に委託されることが多く、職場には調整が必要な手間のかかる業務が残りました。委託先の企業を監督する業務なども新たに加わり、結果として職員の負担が増加しています。
職員数を減らし過ぎた結果、多くの職場で欠員が生じており、求人を出しても集まらないような状態になっています。一人当たりの労働時間は減少しつつあるものの、夜間や休日にしかできない業務もあり、時間外労働はあまり減っていません。
小泉構造改革以降、水道事業を専門的に担う技能職も減らされてきました。そのため、水道・下水道の職場で経験を積んだ職員が、まったく別の部署に異動してしまい、技術継承ができなくなるという問題も起きています。いわゆる「就職氷河期」の採用が抑制されてきたことで、職場の年齢構成がいびつになっていることも技術継承を難しくしています。
大都市はまだよいのですが、中核市に満たないような自治体では、水道事業の担当者が数人しかいないことも珍しくありません。その担当者も数年ごとに異動するため、長期的な水道の維持・管理が難しい自治体もあります。
──財政面での課題もありますか。
水道事業は自治体ごとの独立採算が基本で、水道料金の収入が主な財源です。そのため、人口の少ない地域では収入が限られ、維持管理が難しくなります。国は過疎地域を補助したり、水道事業の広域化を推進したりしていますが、必ずしもうまくいっていません。
さらに電気代や工事費、人件費が上昇しているため、水道事業を運営するためのコストは増加しています。特に水道はポンプで圧力をかけて水を送るため、大量の電力を消費します。実際、東京都水道局だけで東京電力の総配電量の1%を使用しているほどです。そのため、電気代が上昇すると運営はますます厳しくなります。
一方、こうしたコスト増加にもかかわらず価格転嫁は進んでいません。水道料金を据え置いている自治体が圧倒的に多いのが現状で、すでに一部の自治体は赤字経営に陥っています。中には、水道料金を安く抑えて一般財源で補塡している自治体もありますが、こうした状態では、老朽化した水道管の更新や耐震化を進めることはできません。水道インフラの維持のためにも水道料金への反映を検討する必要があります。
しかし、水道料金の引き上げは容易ではありません。料金改定には議会の承認が必要であり、首長の同意も求められます。現状はすでに「乾いたぞうきんを絞る」ような状態ですが、値上げを求めると議会や首長から、「値上げをするなら内部努力を徹底しろ」と求められることが多く、結果として職員の削減につながるという悪循環も生じています。
仮に、水道事業を民営化していたら、ヨーロッパで実際あったように水道料金は急激に高くなるかもしれません。議会の承認が必要になることは、この点では歯止めになっています。
水道・下水道は、なくてはならない社会インフラです。それらを持続可能なものにするためにも適正な価格転嫁が求められています。
──どのような対応が求められるでしょうか。
水道や下水道は、市民生活や企業活動を根底から支えるために必要不可欠なインフラです。まずは社会の「水リテラシー」を高めることが大切だと考えています。水をきれいにして送る工程や、それにかかわる人々の仕事を知ってもらうだけでも、水道の価値や維持に対する意識は変わると思います。
一方、水道・下水道を維持するためには、職員定数の増加が欠かせません。人材を確保するためにも国や自治体は、水道事業が社会を支える働きがいのある職場であることを積極的にアピールしてほしいと思います。また、設計単価の引き上げによって工事を担う労働者の賃上げを実現する必要があります。加えて、人事異動を繰り返すゼネラリスト型の人材育成だけでなく、水道事業に精通したスペシャリストの育成も重要だと考えています。
──情報労連の組合員にメッセージをお願いします。
情報通信も水道と同じように、生活のために欠かせない社会インフラです。ともに社会の基盤を支える労働者として、働く人々の生活を守りながら、より良いインフラと持続可能な社会の実現に向けて、力を合わせて取り組んでいきましょう。