特集2025.04

どうする? 社会保障
めざすべきビジョンを再考する
人手不足で多忙な日々
賃上げが難しい制度の課題
医療・介護の人材を支えるには?

2025/04/14
私たちの暮らしは、医療・介護で働く人たちの頑張りによって支えられている。現場はどのような課題を抱えているのだろうか。医療現場で働く仲間の声を聞いた。
医療の現場は働く人によって支えられている(写真:Dabisik/PIXTA)
情報労連関東信越ブロック支部
全済生会労働組合前橋支部 阿部 直哉・執行委員長 須田 祐貴・書記長 島田 泰治・書記次長

──病院における現状の課題は?

阿部人手不足にずっと悩まされています。特に年度末にかけて退職する人が増えるので、残った人の負担が増えるという状況が、毎年のように繰り返されています。

島田当院では、患者をなるべく受け入れる方針を掲げており、その影響で看護師はとにかく忙しい状態が続いています。労働組合としては、組合活動に参加してもらいたいのですが、現場の看護師たちはそれどころではないというのが現実です。

須田人手不足の状況は年々悪化している印象です。病院の収入は診療報酬にひもづいているので、収益を上げようとすれば多くの患者を受け入れる必要がありますが、そうなるとスタッフ、特に看護師の負担が増えるという構造的な問題があります。

──人材確保の状況はどうでしょうか?

阿部求人をかけても人がなかなか集まらないのが現状です。特に当院のようにある程度の規模になると夜勤もありますし、救急対応があるので敬遠されがちです。個人経営のクリニックの方が夜勤もなく、賃金が高い場合もあるので、そちらに流れてしまうという現実があります。また、処遇の良さから自由診療の分野に人手が流れている実態もあります。

須田最近では中堅どころの職員が他の病院に転職するケースが目立ちます。もっと規模の大きい病院で働きたい人や、個人経営のクリニックに転職する人が多いです。そこに当院のような中規模病院の難しさがあります。

──賃上げの状況はどうでしょうか?

島田新型コロナウイルスの流行で患者数が一時期大きく減って病院の経営は苦しくなりました。今は物価高で病院の電気代や食事代も上がっていますが、病院の収益は診療報酬で決まるので、民間企業のようにはどうしてもいきません。物価が上がっているから賃金を上げてほしいといっても診療報酬の問題に直面します。

阿部昨年から「ベースアップ評価料」という制度が始まりました。これは、国が医療従事者の処遇改善を目的として設けたもので、医療機関が職員の賃金を引き上げる際に、診療報酬に一定の加算が認められる仕組みです。

2024年はこの制度を利用して、2.5%の賃上げ相当の手当が月例賃金に上積みされました。今年については、国は2.0%の賃上げを見込んでいます。労働組合としては、この制度の活用を病院側に要望しています。

ベースアップ評価料による賃上げは、多くの病院で「手当」という形で支給されているようです。他の病院の状況を見ても基本給の引き上げで実施したところは少ない印象です。

ただ、手当での引き上げでは、厚生労働省がこの制度をやめてしまえば、手当がなくなる可能性があります。そうなると現場としても不安が残ります。

また、物価上昇への対応という点でも十分ではありません。昨年は2.5%、今年は2.0%の賃上げとされていますが、これでは物価の上昇に追い付けません。賃上げ率を引き上げたり、もっと直接的に基本給を引き上げたりできる制度になるといいと思います。

須田現状を踏まえると診療報酬が上がることはあまり期待できません。そもそも国全体として、医療費を削減したいという枠組みがあって、その中で長年、病院の統廃合が進められてきました。

コロナ以前は、「病院の数が多すぎるから減らそう」というのが国の方針でしたが、コロナが流行した際、病床も人手も不足しているという現実が明らかになりました。その結果、一時的に統廃合の話は止まりましたが、今後そうした議論が再燃する可能性はあると思っています。

島田労働組合が現場でいくら頑張っても、診療報酬の仕組みなど、国全体にかかわる問題は、私たちの力だけではどうにもなりません。だからこそ、上部団体や議員の皆さんにしっかりと頑張っていただいて、国の仕組みを変えてほしいと思います。そういう意味で、大きな期待を寄せています。

──人手不足の解消のために何ができるでしょうか。

須田高校の進路指導で、「医療や介護の仕事はきついし、給料もそれほど高くないから、やめておいた方がいい」と話をされることもあるそうです。「医療や介護は社会にとってなくてはならない仕事」と認識されていますが、一方で「誰かがやればいい」と思われているのかもしれません。その結果として、なり手がますます減っていると感じます。

阿部医療よりも介護の方が、人材確保は難しい状況です。介護現場の処遇は、医療より低く、なり手が本当にいないというのが現実です。介護の現場は医療よりもさらに厳しい状況に置かれていると感じます。

医療や介護の現場では、患者や利用者からのハラスメント、いわゆる「ペイシェントハラスメント」も、かなり大きな問題になっています。その影響で心を病んで仕事を辞めてしまう人もいます。

若い人が医療や介護の分野をめざすために、「やってみたい」と思えるような環境をつくることが本当に大切だと思います。

──医療従事者に対する社会的理解についてどう思いますか?

島田昨年からようやく忘年会が開けるようになりましたが、世間一般と比べると私たちの業界はコロナ前に戻るまで2年くらい遅れています。もちろん、それは感染対策のために仕方のないことでもありますが、そうした事情があることを、理解してもらえればと思います。

須田医療従事者は賃金が高いとよく言われますが、実際にはそんなことはありません。現場では、かなり忙しく働いているにもかかわらず、賃金は全体の平均かそれ以下という現実を多くの方に知ってもらいたいと思います。医療のレベルは年々、向上しており、質の高い医療が提供されるようになっています。待遇面もそれに見合う形で改善されれば、医療業界全体が活性化するのではないかと感じています。

──労働組合としてできることは?

阿部労働組合では、ベースアップ評価料の活用による賃上げを要請したほか、コロナやインフルエンザで休んだ場合の特別措置や、年休取得の格差是正など、働きやすい環境づくりに取り組んできました。こうした取り組みを通じて、医療・介護の現場で働きたいと思える人材を増やしていきたいと考えています。

島田情報労連には、さまざまな勉強会やセミナーを開催していただき、ありがたく思っています。看護師が参加しやすくなるために、早めの情報の提供をしていただけると助かります。組合活動に参加して初めて、「組合ってこんなに頑張ってくれていたんだ」と気付いてもらえると思います。若い世代の育成のためにも、そうした機会の充実を期待しています。

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