特集2024.05

つながりを生むレク・文化活動を考える
労働組合「レク」図鑑!
変化を遂げる宴会・レク活動
アップデートと創意工夫を怠るな

2024/05/14
時代とともに移り変わる宴会やレクリエーション。一会社員として、その酸いも甘いも経験してきた常見さんが語る、コミュニケーション促進策の意義とこれからのあり方とは?
常見 陽平 千葉商科大学准教授

2000年を境に変化した宴会

会社のレクリエーションは、批判されつつも何度も復活して現代に至っています。私自身、「昭和ノリ」の宴会に参加してさまざまな経験をし、今は大学教員として誰もが参加できるレクに取り組んでいます。そんな私の経験も踏まえ、あるべきレク活動について一緒に考えてみましょう。

私は1997年、新卒でリクルートに入社しました。待ち受けていたのは社会人の洗礼でした。4月1日、入社式と新人研修が終わり、私は配属先の事業部のパーティー会場に連れていかれました。有明のベイエリアにある豪華なケータリングが並ぶ会場でしたが、司会はバニーガールの格好でした。しかも、女性の先輩社員でした。これには金づちで頭をたたかれるような衝撃を覚えました。ほかにも、ステージ上で営業部の男性対抗の腹筋競争が始まりました。2次会に連れていかれ、新橋の居酒屋で泥酔し、帰りに途中下車した駅で線路に向かって催し。入社当日から衝撃を受けました。

私がかつていたリクルートとバンダイは宴会にすさまじい労力をかける会社でした。そこに宴会芸はつきものでした。営業の数字を追い込む月末でも宴会のためになぜか東急ハンズに被り物を買いに行き、会社の会議室で企画書を書き終わった後、夜の11時からそれを着てダンスの練習をしました。バンダイ時代は、カラオケで布袋寅泰の「CIRCUS」のPVをまねし、ベルトをムチに見立てて振り回す人がいました。その人は、その後、社長になりました。今からしたら考えられませんよね。

けれども、こうした宴会文化は2000年くらいを境に変化します。リクルートは会社の業務の効率化を進める中で、派遣社員や契約社員などを増やしました。中途採用も増え、職場の構成が変わりつつありました。するとそれまでの宴会のやり方を見直す動きが強まり、みんなが楽しめる内容を工夫するようになります。職場のモザイク化・多様化が宴会文化を変えました。

同時にハラスメントに対する意識も高まりました。いわゆる「脱ぎ芸」は会社の宴会ではしないように会社も通達するようになります。コンプライアンス強化の観点から社員教育も増えたことで、声を上げやすくなりました。過去の宴会芸がセクハラに当たるとして懲戒処分を受けた人もいました。

宴会のプラスの側面

さまざまな宴会芸を披露してきた私ですが、新人当時は嫌だなと思う気持ちが7〜8割でした。就職氷河期時代に大学を卒業して、第一志望の会社に就職したのに、なぜこんなことをしているのだろうという思いはやはりありました。

その一方で、みんなに喜んでもらったり、仲良くしたり、職場の目標の達成のために一体感を感じたり、そういう面では良さを感じたこともありました。宴会の準備をしていると先輩が「自分も嫌だった」と声をかけてくれたり、「頑張ったね」とか「君にはこういういいところがあるんだね」と言ってくれたりしました。宴会は社員の新たな一面を見つける場や、褒める場にもなっていました。

だからといって昔と同じように宴会をやればいいとは思いません。宴会イコール悪ではなく、コンプライアンス意識をアップデートしつつ、面白くて参加しやすく、互いのためになるコミュニケーションが大事なのだと思います。

コミュニケーション促進の事例

仕事をする上で、相手の人となりを知ることはとても大切です。そのため、大手企業では、会話が自然と生まれる仕組みが取り入れられています。例えば、三井物産ではフロアごとにコンセプトが決まっていて、あるフロアはグループで作業をし、あるフロアは1人で集中するというように分けられています。みんなが集まるフロアでは、コーヒーメーカーの抽出速度をわざと遅くしているそうです。待っている間に会話が生まれるようにするための工夫です。

リクルートでは社員が20人だった頃から社内報をつくって互いの情報を開示していました。社内報はトイレの壁にも貼られていて、そこで役に立つ話や少し笑える話、元気になれる話が共有されていました。

NHKの『新プロジェクトX』で紹介されたエピソードですが東京スカイツリーには3本の大きな柱があり、その建設はそれぞれ別の会社が受け持っていたそうです。各社の連携をどうするのかが課題でした。一気に打ち解けたのが3社で行った花見だったといいます。最初はばらばらで飲んでいたのが、何となく会話が始まり、技術上の交流も生まれて一体感が芽生え、建設がスムーズに進むようになりました。

新宿三井ビルでは、ビル建設当初から40年以上続く「新宿三井ビルディング 会社対抗 のど自慢大会」があります。「奇祭」ともいえるイベントですが、労使コミュニケーションを考える上でもベンチマークにすべき事例だと思います。この大会は、「このビルで働いている人」なら誰でも参加できます。アルバイトでも、派遣でも客先常駐でも構いません。昨年はスターバックスで働く大学生のアルバイト店員が大活躍しました。中には社内オーディションを行う会社もあります。その結果、社内の一体感が生まれるだけではなく、ビル全体のコミュニケーションも活性化されます。東日本大震災以降は、防災の面からも重要性が認識されるようになりました。

また、社内SNSを活用して、自分の趣味や経験を発信し、交流を深めている企業もあります。それが人材発掘の場にもなっています。

このように会社では、さまざまな形でコミュケーションを促進する取り組みが行われています。それは仕事を進める上で、人となりを共有することが大切だからです。レクリエーションをする際には、チームワークを高めたり、組織のビジョンを共有したり、「裏テーマ」として目的を持っておいてもいいと思います。

創意工夫をさぼらない

「若者は飲み会が嫌い」とか、「レクリエーションは昭和の文化」というくくりも雑な議論だと思います。人は誰かとつながりたいと思う生き物です。大切なのは、つながり方をアップデートし、新しいつながり方をデザインすることです。つながりのつくり方は、社内の読書会、勉強会、ハッカソンでもなんでも構いません。

レク活動は、人材発掘の場でもあります。レク活動を通じて、それぞれのメンバーのいいところに光を当てることが大切です。その意味でも、労働組合のレク活動でセクハラやパワハラがあっては元も子もありません。どうしたらみんなが楽しく参加できるのか、その創意工夫をさぼってはいけません。

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