特集2024.10

労働法の見直し議論の動向
デロゲーション、労働時間規制、労使コミュニケーション
「勤務間インターバル」「つながらない権利」
仕事と生活の両立をめざす情報労連の取り組み

2024/10/11
情報労連は、誰もが仕事と生活の両立を果たす「時間主権の確立」の取り組みの一環として、「勤務間インターバル」「つながらない権利」に取り組んでいる。制度の導入・定着までには粘り強い交渉が必要となる。職場から取り組みを始めよう。
青木 哲彦 情報労連政策局長

勤務間インターバルの取り組み

コロナ禍により、テレワークが定着し、柔軟な働き方が多くの企業で導入されるとともに、ICTの進展によりいつでもどこでもさまざまなツールで連絡がとれるようになっている。そういった技術の進展は、私たちの生活を便利で豊かにする反面、課題も顕在化されてきた。そのような中、情報労連では新たに「つながらない権利」について取り組みを進めている。

まず、これまでの情報労連の取り組みに触れていきたい。情報労連では、運動の方向性と政策の基本的なスタンスを明確にするために「情報労連21世紀デザイン」を策定している。その考え方の中核を成す一つに、誰もが仕事と生活の両立を果たすための「時間主権の確立」の実現をめざすこととしている。具体的には、年間総労働時間の短縮に向けた産別目標の設定や組合員の生活実感、ライフスタイルに関わる調査・分析などを行い、時間創出に向けた条件整備を進めてきた。

その取り組みの一環として、「勤務間インターバル制度」の導入を2009春季生活闘争の要求方針に掲げ、通建連合を中心に協定化を図ってきたが、2011春季生活闘争以降は労使間の見解の違いが明らかになり、制度導入に資するガイドライン(「勤務間インターバル制度」の導入に向けて)を策定し取り組みを推進してきた。この情報労連の取り組みを契機に、連合においても「勤務間インターバル制度」の導入促進を春闘要求に掲げることとなり、他産別でも広がりを見せている。「勤務間インターバル制度」の導入により、職場からは「深夜時間帯の回線切り替え等作業が、連続勤務からローテーション勤務に変更された」「企業側が交代要員の確保や複数業務をこなせる多能工化を進めるようになった」「始業時間に間に合わなくても勤務したものとみなされるので、休息時間が確保しやすくなった」などの評価が寄せられている。

この取り組みの推進を掲げ、すでに10年以上が経過している。一つの制度を導入するにはそれ相当の労使コミュニケーションが必要であり、粘り強い交渉が必要だ。しかしながら、「千里の道も一歩から」との故事のように、まず一歩踏み出すことが肝要だ。

「つながらない権利」

そのような背景を踏まえ、情報労連は新たな取り組みに向けて一歩踏み出した。それが「つながらない権利」。

一般に「つながらない権利」とは、勤務時間外や休日に仕事上のメールや電話などへの対応を拒否する権利のことをいう。日本では、勤務時間外の電話・メール対応等を実施する場合、労働基準法の観点から、労働時間とみなされることとなる。自然災害や通信障害等に起因する緊急事態の発生時等を除き、勤務時間外は職務遂行や上司の指揮命令等から解放されるべきだが、現状、労働者の「つながらない権利」を守るための法律は制定されておらず、企業の自主的な取り組みに委ねられている状況にある。

2021年に改定された厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」においては、業務時間外における業務の指示や報告のあり方についてルールを設けるのが望ましい旨や、業務時間外の連絡に応じなかったことを理由に不利益な人事評価を行うことは不適切との注意喚起がなされたが強制力はない。また、連合では、2020年に策定した「テレワーク導入に向けた労働組合の取り組み方針」において、長時間労働対策の一環として「つながらない権利」の確保に向けた労使協議、労使協定の締結、就業規則等での規定の整備に取り組むことを盛り込んでいる。

情報労連の対置する情報通信・情報サービス産業は、その他産業に比べ圧倒的にテレワークの実施率が高く、どのようにしてテレワークにおける負の側面を緩和し、新たな時代の働きやすい環境を整備していくのか、産業全体で模索していく必要がある。今回のテーマである「つながらない権利」は、デジタル社会において、いかに真の意味で「オフの時間」を確保していくか、という課題に向き合うことにほかならない。

NTT労働組合が実施した「働き方アンケート」(2023年8月)では、勤務日の勤務時間外において「連絡がある」との回答が約5割、そのうち、「すべて対応した/急を要するもののみ対応した」との回答が約9割を占める実態にあるとともに、約6割が「つながらない権利」の必要性を感じているとの結果も出ており、職場におけるニーズも顕在化している。また、情報労連が毎年行っている「総合労働条件調査」の2023年度版では、加盟組合の調査回答組合の半数以上が「つながらない権利」に関するルールがなく、検討もしていない状況が明らかとなった。

これら状況を踏まえ、2024春季生活闘争において、情報労連の新たな統一的取り組みとして「つながらない権利(勤務時間外の連絡ルール)」の確立について掲げた。

具体的な対策としては、(1)心身の健康維持、(2)長時間労働の抑制、(3)生活時間の確保──等の観点から、使用者、従業員ともに勤務時間外のメール送付等を原則禁止するとともに、原則外(緊急性の高いもの等)の場合の扱いを整理するなど、勤務時間外の連絡のあり方についてルールを策定し、勤務時間外に応対しなかったこと等を理由とする不利益取り扱いを禁止すること等を示した。

さらに、「勤務時間外における社内システムへのアクセス制限」「時間外・休日・深夜労働に対する使用者による許可制の徹底」「年次有給休暇の取得促進」「長時間労働等を行う労働者への注意喚起」、そして、前述の「勤務間インターバルの確保」などの対策もあわせ、複合的かつ総合的な環境整備や勤務時間外に顧客や取引先とのやりとりなども想定すれば、企業内にとどまらず、顧客や取引先などあらゆる関係者を含む社外への発信なども必要であると考えている。

このようなあらゆることを想定した結果、2024春季生活闘争では、各組織において職場の実態把握等が必要だったこともあり、具体的な改善はごく一部にとどまった。一方、前進した組織では、休日の電話・メール対応の禁止、対応しなかったことによる人事評価の不利益の禁止──等の回答を引き出すことができた。

引き続き、現場の実態を踏まえ、労使コミュニケーションをさらに深め、実効性あるルールの策定と環境整備に向けて取り組んでいきたい。

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