特集2024.11

「組織拡大」強化のススメ
仲間をつなぎ仲間を増やす
「組織化は核づくりに尽きる」
信頼が仲間を増やす原動力

2024/11/15
労働組合づくりの秘訣とは何か? 組合づくりの第一線で活動し、多くの結成に携わった労働組合づくりのプロに話を聞いた。
江口 実

連合神奈川
組織拡大アドバイザー


プロフィル

2010年 日産労連 副会長

2013年 連合本部 組織化専任チーム 局長

             官民15産別、各構成組織の組織拡大に携わる
             連合8年間で18労組 約1万人を組織化
             情報労連 各種セミナー講師を過去7回実施

2020年 連合本部 中央オルガナイザー

2021年 連合神奈川、自動車総連 組織拡大アドバイザー 現在に至る

──労働組合をつくるための心構えは?

組織拡大は、「人も組織も試される活動」です。労働組合のない職場で働く人やその会社の経営者との対話力が求められます。組織拡大では、「お金を払ってまで組合をつくる必要があるのか」と考える人を説得しなければいけません。これは、かなり難しい作業です。労働組合づくりの秘訣は、言葉では説明できないことがとても多く、経験がものを言う世界でもあります。一つの組合をつくるのに1年から1年半の時間をかけて丁寧に進めていきます。

──具体的に何から取り掛かりますか?

労働組合の設立で、まず大切なのは「相手を知る」ことです。つまり、相手企業のことをできる限り調べることです。

労働組合が成果を出すためには会社の理解は不可欠であり、そのための経営対策が欠かせません。「組合の力は労使の力」。労働組合は会社を発展させるためのものであり、経営者から信頼を得ることが求められます。

経営者に会うときは、「相手企業のことを徹底的に愛せ!」と言っています。つまり、それくらい相手企業のことを知っておく必要があるということです。「経営者は、人を見る」との言葉どおり、「労働組合の結成後もこの人なら会社のことを任せられる」。そう思ってもらえるくらい信頼してもらう必要があります。

会社とは、労働組合をつくる前に結成後の労使関係のイメージを共有しておくことが大切です。そのため、権利主張だけではなく、企業人であることの大切さを強調しています。労働組合には人材育成の側面もあります。労働組合役員を経験し、会社の幹部を育成することは会社にとってメリットになります。

──次に取りかかることはありますか?

その上で、組合づくりの「核」となるメンバーを選んでいきます。

「組織化は核づくりに尽きる」という言葉があります。「核」となる人は、職場から信頼された人でなければなり得ません。そのため、その人選には会社の協力も求めます。

しかし、優秀な人であるほど労働組合の必要性を理解してもらうことは難しいです。組合づくりの核になるメンバーであっても、最初は組合費の負担拒否から「労働組合なんて本当に必要なの?」と考える人ばかりです。押し付けでなく、当事者の主体性を大事にしつつ労働組合の必要性を丁寧に確認します。

そこで大切なのは、労働条件改善の具体的なビジョンを示すことです。民間企業における中小企業の労働組合の組織率はわずか1%未満と低く、その労働条件は労働基準法の低位に甘んじています。そうした職場で働く人に聞くと同業他社の情報を知らないことから、「不満は特にない」と答える人がほとんどです。しかし、賃上げ交渉や退職金の制度ができる、福利厚生が充実するなど、労働組合のある同業、同規模の会社との違いを知ると、その必要性に気が付きます。相手を本気にする情報提供が大切です。

組織拡大は手段であって目的ではありません。労働条件改善という目的を示すことで彼らも腹落ちしてくれます。まさに「労働条件は一日にしてならず。木の年輪のごとし」。私たちも最初に組合を作ってくれた先輩、水準を引き上げてきた先輩方に感謝すべきです。組合の存在が魅力ある企業をつくるのです。

──従業員への働き掛けは?

労働組合のある職場の人が、ない職場の人に働き掛けても響きません。組織拡大の本質は、労働組合のない職場の人が、同じ境遇の職場の人に労働組合の必要性を訴えることです。核になるメンバーから職場の全員に訴えかけることで、職場の皆さんも納得して労働組合の必要性に同意してくれます。だからこそ、核となる人の人選が大切であり、その人たちが真剣に訴えれば全体の8割、9割以上の方々の賛同は得られます。

また、話し合いの中で労働組合のない職場の人からは、普段組合役員からは出てこない素朴で難しい質問が飛んできます。あらかじめ想定問答をつくり、用意周到に望むことが大切です。丁寧な対話が信頼関係につながります。

そこからようやく準備委員会を結成し、結成準備を行った上で労働組合の結成に至ります。労働組合の結成大会では、紅白まんじゅうを参加者に配ります。組合員の家族にも会社に労働組合ができたことを知ってもらうためです。これで家族に賃上げの交渉ができるようになったと伝えられます。そして、結成大会では、社長が労働組合に期待することを述べます。労使がともに会社の発展のために努力することを確認し合います。大切なのは結成大会には加入を保留されている方々にも参加を呼び掛け、近い将来全員加入をめざしていくことを確認します。

──結成後のサポートも重要です。

組織化は労働組合をつくったら終わりではありません。つくった後に真価が問われます。上部団体は、単組だけでは難しい労働条件の向上のために一緒に汗をかく存在でなければなりません。

上部団体には五つの頼りがいがあります。それは(1)業種政策(同じ業種の部会)、(2)経営対策、(3)迅速なサポート、(4)教育、(5)助け合いの共済制度──です。こうした強みを生かして、頼りがいのある上部団体になることが求められます。

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