特集2024.11

「組織拡大」強化のススメ
仲間をつなぎ仲間を増やす
仲間とともに要求の実現へ
「職場を変える秘密のレシピ47」

2024/11/15
アメリカの労働団体であるレイバー・ノーツがまとめた『職場を変える秘密のレシピ47』(邦訳:日本労働弁護団)には、組織化のノウハウがたくさん詰まっている。本にはどんなメッセージが込められているのか。翻訳者の1人である菅弁護士に聞いた。
写真提供:Jim West/jimwestphoto.com
菅 俊治 弁護士
『職場を変える秘密のレシピ47』

──この本が生まれた経緯を教えてください。

レイバー・ノーツは1979年、「労働運動に運動を取り戻す」を合言葉に設立されたアメリカの労働団体です。労働組合運動の衰退に危機感を抱いた人たちが、草の根の運動を強くするために作った組織で、月刊誌を発行したり、教育プログラムを提供したりしています。

レイバー・ノーツは、月刊誌に掲載した運動の実践例などをまとめた『トラブルメーカー・ハンドブック』という本を1991年に発行し、第2巻も2005年に発行します。

その第3弾として2016年に発行されたのが『職場を変える秘密のレシピ47』の原著となる本(“Secrets of a Successful Organizer”)です。この本では、レイバー・ノーツのそれまでの運動のノウハウが、コンパクトかつわかりやすくまとめられています。

2017年から仲間と一緒に英語版の読書会を重ね、先輩活動家の山崎精一さん、マット・ノイズさんの協力などを得ながら、翻訳・出版することになりました。

──この本の特徴を教えてください。

いくつかの特徴があります。

一つ目は、産業や企業規模などの違いにかかわらず職場で実践できる具体的な事例が、「47の秘訣」としてまとめられていることです。掲載されている事例は、どれも自分たちにも実践できると思える内容です。

二つ目は、運動を徐々に強めていけるように、本の構成が七つのセクションに分かれ体系立てられていることです。内容をたどることでステップアップしながら運動を強めることができます。

三つ目は、一つずつの「秘訣」について具体的な実践例が紹介されていることです。実際に試された活動が紹介されているので、自信を持って行動に移すことができます。こうした事例を紹介できるのは、月刊誌の中で詳細な実践報告を積み重ねてきたことがあります。

四つ目は、各パートに練習問題が付いていることです。職場の仲間と一緒に課題に取り組むことで活動に応用することができます。

──仲間を増やして職場を変えていこうというメッセージが印象的でした。

この本のもう一つの重要なメッセージは、働く人たちが要求を実現するためには、たくさんの人を巻き込んで力関係を変える必要があるということです。実は、このことが、一番大切なところかもしれません。この本は、私たちの要求は、「お願い」をするだけでは実現しないという冷徹な事実から出発し、そこから逃げていません。

この本には「パワー(力)」という言葉が何度も出てきます。これは、要求を実現するために欠かせない要素として描かれており、職場の力関係を変えるためには多くの仲間を巻き込む必要があることが強調されています。そして、そのための具体的なノウハウがしっかりと示されています。要求を実現するためには、仲間同士で助け合い、ともにリスクを取りながら立ち上がれるような人間関係が必要であり、それを築くための方法が、この本で詳しく解説されています。

レイバー・ノーツでは、この本と合わせたトレーニングコースを提供しています。その大きな特徴は、発想の転換を促してくれることです。アメリカでも「こんなことはできない」「問題解決につながらない」「怖くてできない」というネガティブな思考は存在します。それに対してレイバー・ノーツは、そうしたマインドを前向きに切り替えることを手助けしてくれます。そして、筋トレのように負荷を少しずつ高めることで、強い組合を築いていくという具体的なメニューが紹介されています。

例えば、職場の中でリーダーを見つけ、仲間を増やしながら強い組織をつくるための「職場マッピング」という手法も、この本で具体的に解説されています。このような手法を自分たちの職場でどのように応用するかを具体的に話し合える点も非常に使いやすいです。

──日本の職場との違いはありますか?

日本との違いを挙げるとすれば、日本ではこうした実践例の共有がまだ少ないことだと思います。この本やレイバー・ノーツでは、各地の労働組合のさまざまな活動が、詳しく丁寧に紹介されています。そこでは成功した事例だけではなく、失敗した事例も紹介されています。長年にわたり具体例を積み重ねてきたことが運動の成果に結び付いています。

例えば、全米自動車労働組合(UAW)のショーン・フェイン会長も「トラブルメーカー・ハンドブック」は組合活動を始めた自分のバイブルだった。この本が私に労働者階級への信念を教えてくれた。その信念がUAWの新しい歴史のページを開いたと発言しています。

──トラブルメーカーという言葉は、日本だと印象があまりよくないですね。

アメリカでも「トラブルメーカー」という言葉を本のタイトルに付けるのには議論があったようです。しかし、何かを変えるために声を上げる際には、トラブルメーカーと言われるくらいでちょうどいいという思いがあったそうです。

これは、アメリカの公民権運動やウーマンリブのような社会運動の歴史的な経験が背景にあるのだと思います。公民権運動のリーダーたちは、トラブルメーカーと呼ばれていましたが、最後には社会を変えることに成功しました。そうした運動の歴史があったからこそ、トラブルメーカーという言葉には勇気をもって行動するという思いが込められているのだと思います。さらには、アメリカにおけるコミュニティーオーガナイジングの伝統も反映されています。

しかし、この本で書かれているリーダー像は、トラブルメーカーとは言いつつも、それとはまったく異なります。例えば、人の話をきちんと聞くとか、仲間に寄り添って励ますとか、戦略やスケジュールを組み立てて実践に移すとか、実際にはリーダーシップに非常に富んだ人物として描かれています。そのため、この本には労働組合のためだけではなく、会社運営にも使えることがたくさん盛り込まれています。この本は、リーダーの資質を高めるための本でもあります。

──日本の労働組合運動の課題は?

今後の課題は、日本の労働組合の成功談や失敗談を集め、それらのエピソードを共有することだと思います。日本ではそうした取り組みが弱いと思います。うまくいった事例だけではなく、うまくいかなかったリアルな事例も含めて、正直に共有し合うことが大切だと思います。

この本を仲間と翻訳した際、「いつか日本版をつくりたい」と話していました。日本の労働組合の経験をまとめ、日本の職場でより使いやすいものをつくり出せたら、とてもうれしいです。そのためにも労働組合の皆さんと運動の経験をもっと共有していきたいと思います。

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