特集2024.11

「組織拡大」強化のススメ
仲間をつなぎ仲間を増やす
求心力の回復が仲間づくりにつながる
土台となる個々の関係づくりを

2024/11/15
組織を発展させるためには、組織への求心力が欠かせない。一人ひとりの組合員と信頼関係を築くことが、組織への求心力を高め、仲間づくりにつながる。
松岡 康司 連合総研主任研究員

求心力低下の理由

労組に限らず組織という形態を維持していくには、組織を構成する個々人を引き付ける力=求心力が必要不可欠であることは言うまでもありません。私はこれまで労組役員の方たちとさまざまな場で意見交換をする機会に恵まれましたが、彼ら・彼女らの活動の悩みの背景にはいつも組織の求心力の低下がありました。そこで、ここではどうすれば労組の求心力が高まり、組合員が活動に積極的に参加するようになるのかを探りたいと思います。まずは求心力が低下した理由から考えてみることにしましょう。

求心力低下の理由はたくさんあると思いますが、労組の価値観が時代の変化や多様化に追い付いていないことも考えられるのではないでしょうか。労組の最優先課題は雇用確保と労働条件の向上です。とりわけ賃金改善(賃上げ)は労組の存在価値を示すものとして広く認識されています。もちろん今後も追求していくべき重要な課題です。

しかし、賃上げの流れは中小企業や非正規労働者を含めた全体のうねりにまでにはなっていませんし、企業ごとで見ればやはり企業業績いかんにその結果は大きく依存します。したがって、毎年の大幅な賃上げだけで労組の求心力を維持向上していくのは大きな労組でさえも難しいのではないでしょうか。

にもかかわらず、いまだに労組=賃上げの単一的なイメージを労組自らも標ぼうしているように私は感じます。大幅な賃上げはホームランで得点するように一気に求心力を向上させることはできると思いますが、ホームランバッターがいないチームでは別な戦略が必要であるように、労組も賃上げ一辺倒(に見える)の戦略を見直し、多様な価値観への対応が重要になってきます。

多様なニーズに応える

多様な価値観や仕事に求めるものの多様化を示す例としては、例えば若い世代では自分らしさを尊重する傾向が強いといわれ、柔軟な働き方を認めてくれる企業を求める一方で、キャリアアップの機会や成長できる環境を賃金の高さより重視しているというアンケート結果もあります。

多様な価値観への対応と書くと難しく感じるかもしれませんが、まずは組合員の個々のニーズや困りごとをしっかり把握することから始めましょう。ここでのポイントは個々のニーズや困りごとをどう把握していくかです。例えば、これまで労組で用いられてきた集会には、声の大きな人の意見が通りやすいことや、時間、場所などの制約から多くの組合員に意見を聞くことができないなどの課題があります。もちろん一人ひとりから意見を聞くことが理想ですが、それが難しい場合は少人数のグループ設定、例えば女性、若年層など普段の集会ではマイノリティーとなってしまう層、発言を遠慮してしまう層の参加に絞るなどの工夫が必要です。

また、最近ではZoomなどに代表されるWEB会議システムを活用している労組も増えてきました。集会場所を押さえる必要もなく、遠隔地からも参加できるなどのメリットもありますので、導入をしていない労組はぜひ検討してみてください。WEB会議システムにおいても対面集会と同様に個々の意見を把握するために工夫が必要です。特にWEB会議システムに備わっているチャット機能を活用し、適宜意見を書き込んでもらうことは普段からSNSやチャットに慣れ親しんでいる若年層組合員には効果的だと考えます。

このように創意工夫を図り、個々の意見を真摯に聴くことに努める姿勢は、組合員からは「一人ひとりの存在を大切にしている」と映るのではないでしょうか。このことは労組と個々の組合員との間に良い関係性を築くことにつながります。この関係性の上に信頼関係が生まれることで求心力が向上していくと考えます。

フィードバックが大切

次に関係性をどうしたら信頼関係に高められるかについて検討します。私は、把握した個々のニーズや悩みごとにアクションをすること、そしてアクションの結果と、なぜそのような結果になったのかの理由も含めてフィードバックすることが重要だと思います。話を聴いてくれた相手がそのことで実際に行動してくれたことで(たとえ結果はどうであれ)相手への感謝の気持ちとともに信頼感が生まれたり、増したりした経験が皆さんにもあるのではないでしょうか。個々のニーズや困りごとがたくさんある場合には優先順位を決めます。

当然、組合員の命や健康にかかわることは最優先ですが、それ以外はすぐにアクションを打てそうなものから対応していくのがよいと思います。最終的にアクションがよい結果に結び付かないこともあるかもしれませんが、そのときも理由を含めて当該組合に丁寧にフィードバックすることが大切です。

例えば組合員からパワハラの悩みが挙げられたとしましょう。事実関係を当該の組合員や職場、上司からヒアリングするというアクションであれば比較的すぐに対応できるのではないでしょうか。次の段階として、事実関係を踏まえ当該組合員に社内のパワハラ相談窓口を案内し、会社に対応を引き継ぎつつ、適宜、相談者に対応状況についてフィードバックを行います。ここで一件落着、とはなりません。むしろここからが労組の腕の見せどころです。パワハラが起こった職場の状況や相談窓口の組合員への浸透具合を検証し、ハラスメント研修の充実や相談窓口の周知などの取り組みの強化につなげていくことを忘れてはいけません。

信頼感から仲間づくりへ

このように個々の組合員のニーズや困りごとを把握し、アクションとフィードバックをきちんと繰り返していくことが組合員の信頼感を高め、それが求心力の向上につながっていくと考えます。決して近道ではありませんが、組合員一人ひとりに寄り添った丁寧な取り組みこそが労組の原点であり、求心力の源なのです。また、先述したパワハラの事例のように個々への対応から職場や会社全体へ取り組みを拡大していくことで、組合員はもとより、未組織社員や労使間の信頼感も高めることもできるのではないでしょうか。

最後に宣伝になりますが、連合総研では日々の活動に奮闘する労組役員の皆さんを応援する観点にたち、16本の論文をまとめた報告書「労働組合の『未来』を創る ──理解・共感・参加を広げる16のアプローチ──」を2024年9月に公表しました。また、あわせて16本の論文の中から、労組の抱える悩みや課題ごとに「おすすめ論文」を紹介するリーフレットも作成しました。活動活性化のヒントにしていただければ幸いです。

※「労働組合の『未来』を創る ─理解・共感・参加を広げる16のアプローチ─」報告書と「労働組合の未来」リーフレットはこちらからダウンロードができます。
https://www.rengo-soken.or.jp/info/2024/09/121012.html

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