特集2016.12

人手不足と労働組合労働組合は人手不足を上手に生かせ

2016/12/15
人手不足は働き方にポジティブな変革をもたらしてくれるかもしれない。労働組合はこのチャンスを戦略的に生かすべきだ。
常見 陽平 千葉商科大学専任講師

人手不足に希望

人手不足が働き方に変革をもたらすかもしれません。私はそこに希望を見いだしています。

人手不足は深刻です。人手が足りなくて「ブラック企業化」してしまう職場が後を絶ちません。その反対もあります。つい先日、知り合ったIT企業の人は、業績は伸びているけど、人が採れない。人が採れればもっと業績を伸ばせると本音を漏らしていました。人手不足は、業界や職種を問わずとっくに起きていて、地域ではかなり深刻な状態です。

私は石川県から委託されて「いしかわ採強道場」の講師を務めています。そこで中堅・中小企業の採用力強化をお手伝いしているのですが、悩みは深い。例えば、地方から都市部に人口が流出する■地元に残っても、若者は地元の大手企業をめざす■中小企業のPRも洗練されていない─などさまざまな要因が絡み合った構造的な問題があります。

アドバイザーの視点では、「人が採れない企業はやばいと思え」と言っています。採用できない理由はいくらでも挙げられます。「少子化だ」「売り手市場だ」「大企業に行ってしまう」……。精神論を言うわけではありませんが、そうやって採れない理由をあげつらっても仕方ありません。冷たいようですが、人が採れないのは「職場の魅力がないからじゃないの」と思ってしまうわけです。

自分の会社を誇れるように

「働き方改革」の文脈でも言えますが、今後企業に求められるのは、「勤めていることを誇れる会社にすること」です。青臭いようですけど、周りから尊敬される会社って本当に大切だと思います。「あの会社はおもしろいことをやっている」「働き方が素敵だね」と思われないとダメなんです。

大手企業に勤めている人にも閉塞感はあります。例えば、ベンチャー企業に対するコンプレックスがあったりする。この間も若手社員との座談会でそういう話を聞いて、自分の会社を誇れない人がこんなに多いのかと感じました。

労働環境を良くしないと人が採れない時代です。人が採れないことにもっと危機感を持たないといけません。人が採れないということは、従業員だけではなく、消費者からも逃げられるという論理だって成り立たなくはありません。業界によっては人が足りないと売り上げが伸びません。そういう危機感を持つべきです。

この流れでいくと、経営者の意識改革も必要ですが、従業員の意識改革も大切だと思います。「自分たちは大切な労働力なんだ」「私たちには希少価値があるんだ」。こうしたことに気付いた方が良いのではないのでしょうか。

会社が高圧的な態度で出てきたら、「労働環境がよくないと辞めてやる」くらいのことを言ってもいいのかもしれません。人手不足の時代だからこそ、です。

従業員第一主義に

私が人事担当者によくアドバイスするのは、採用活動の実態を包み隠さず、経営陣に伝えろということ。例えば、内定者7人中6人に逃げられた。それは、採用者のターゲティングが甘かったということ。「競合企業はもっといい条件を出している」「経営哲学が他社の方が魅力的だ」。そういうことを赤裸々に伝えて、考えさせないといけません。

とはいえ、労働条件をすぐに上げられないと言う経営者もいるでしょう。上げようとしても、大手企業との関係性からそれが困難という現実は正直あります。ただ、これから求められるのは、「従業員第一主義、顧客第二主義」ではないかと思っています。従業員の満足度が高くないと勝ち抜けないと考えた方がいいのでしょう。従業員がいきいきと働いていないと利益が出ない。そういうビジョンや理念を再構築すべきです。

まず、なすべきことは、徹底的な従業員の満足度チェックとストレスチェックです。単なるポーズになってはいけませんが、従業員が何に悩んでいるか、苦しんでいるかを把握しないと、人が死ぬことだって本当に起こり得るのです。また、他社の動きに敏感になることです。今の時代、「実力主義」をうたうだけでは学生に受けません。そうではなく、「ダメ人間でもいいよ。私たちが面倒を見るから」という姿勢の方が支持されるでしょう。「即戦力」のような行き過ぎたターゲティングではなく、限りある人材の育成も課題になっています。

労働組合の戦略的な関与

労働組合にとって、賃上げはとても大切です。それは今も変わりません。けれども、賃金以外の労働条件・環境にももっと目を向ける必要があります。私はずっと発信してきましたが、労働組合は「こうした方が尊敬される職場になりますよ」ということを経営者にもっとインプットしてほしい。「私たちはこういう環境で働きたい」という希望を伝えることです。職場の実態に詳しい労働組合だからこそ、それができます。

現在の「働き方改革」に違和感を覚えるのは、官邸や経営者という「上」からのものになっているからです。それでは「働かせ方改革」になってしまいます。ボトムアップが必要です。従業員のわがままを伝えるだけではダメですが、働く側の希望を発信し、話し合いをすべきです。

働き方を「見える化」するための取り組みも大切です。シェアNO.1より、従業員満足度NO.1の方が尊敬される時代だと思います。そういう意味で「くるみん」とか、「ダイバーシティ100選」といった企業のラベリングも大切だと思います。ブラック企業が認定されてしまうこともありますが……。

労働組合がそうしたラベリングの条件を担保するというのは、その通りだと思います。御用組合が認定しているという批判は出るかもしれませんが、労働組合がしっかりチェックして条件を担保することは大切です。「この会社は働きやすい」と労働組合が言うことができれば説得力がありますよね。労働組合があるからすてきな環境で働ける、そうなるといいですね。成長産業やよりよい環境に人が移動していく、ポジティブな雇用の流動化を労働組合が促すのも、これまでの労働組合の役割とは真逆なようで、今後考えてもいい視点だと思います。

人手不足はいろいろな問題提起をもたらすチャンスだと思います。ポジティブに捉えれば、労働環境をよくしないと人が採れなくなるので、働き方が変わっていく可能性があります。少ない人員の中でやりくりするためのイノベーションが生まれるかもしれない。労働組合はそういう可能性を捉えて、戦略的な提起をしてほしいと思います。

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