特集2016.12

人手不足と労働組合「求人詐欺」に規制強化を
労働市場の健全化に取り組む

2016/12/15
「求人詐欺」問題が顕在化する中で、連合はどう対応するのか。職業安定法の改正に対する連合の主張や、良質な就労機会をつくるための取り組みを紹介する。
(左) 安永 貴夫 連合副事務局長 (右) 渡辺 温子 連合総合労働局労働法制対策局

「求人詐欺」問題の背景

「求人詐欺」は、健全な労働市場の形成を妨げる大きな要因の一つだ。これにかかわる職業安定法の改正論議が現在、厚生労働省の審議会で行われている。連合は労働側の代表として求職者を守るルールづくりを求めている。

そもそも「求人詐欺」問題はなぜ起きてしまうのか。その背景を連合の労働法制対策局の渡辺温子さんは次のように解説する。

「労働条件の明示に関する規制は、募集時の職業安定法と、労働契約時の労働基準法とに分かれています。前者の職業安定法65条には、虚偽の条件を呈示した者への罰則規定があるのですが、『虚偽』の認定が実質上困難で死文化しています。また、労働基準法15条で義務付けているのは労働条件を明示する行為であり、明示された労働条件が事実と異なる場合でも、労働者が労働契約を即時に解約できるとされているにとどまります。このように法規制が弱いことなどを背景に、求人詐欺がまかり通ってしまう現状があります」

「また、求人広告など、求人者からの募集情報を加工しないで提供する募集情報職業提供事業に対する規制が不十分になっています。連合はこうした状態を野放しにしておくわけにはいかないと訴えています」

書面での明示「3分の2」

連合には「求人詐欺」に関する相談が数多く寄せられている。渡辺さんはとりわけ「固定残業代」に関する相談が多いと説明する。ほかにも、正社員の募集だったのにアルバイトの雇用契約書になっていた■労働時間・休日が求人条件と違う─という相談も多く寄せられているという。

連合の調査によると、採用時に賃金などの労働条件を書面で渡された人は3人に2人の割合にとどまった(連合「内定・入社前後のトラブルに関する調査」)。この調査では、労働条件を書面で渡されなかった場合の方が、若手社員の離職率が高い傾向にあることもわかった。

連合は10月7日から31日まで、インターネット上で「ホントにあった怖いブラック求人!!」キャンペーンを実施した。ツイッターに「ハッシュタグ」をつけて、実際にあった「求人詐欺」の体験談をユーザーに書き込んでもらった。その結果、3000件を超える反響があった。渡辺さんは、「固定残業代に関する投稿が多かった」と話す。集めた事例は審議会での議論にも反映させるとしている。

ハローワークの求人票の記載内容にかかわる求職者からの申出・苦情等件数 (全国計)
(出所) 「平成27年度ハローワークにおける求人票の記載内容と実際の労働条件の相違に係る申出等の件数」

連合の主張

こうした背景を踏まえて連合は「求人詐欺」をなくすため、審議会で次の3点の導入を求めている。

(1)事実と異なる労働条件を明示してはならないことを法律に明記すること

(2)明示された労働条件が事実と異なる場合には労働基準監督官の指導・監督を可能にすること

(3)違法行為で行政指導を受けた企業名を公表すること

また、雇用仲介事業の適正化のためにも次の項目に関して、法制化・見直しを要求している。

(1)現在法規制の対象外である募集情報提供事業にも雇用仲介事業者としてのルールを明確化すること

(2)多様化する事業の実態を踏まえて、職業紹介事業と求人・求職者情報提供事業の区分基準を見直すこと

渡辺さんは「人生に大きく影響する就職・転職の局面に悪質な雇用仲介事業者が介在し、働く人が不利益を被っている現状は、公正な労働条件の確保の観点から容認できないという立場で審議会に臨んでいます」と話す。

また、新卒採用に関して内定時に労働条件を通知することや、求人票に固定残業代の有無などがわかる記載方法の導入─なども審議会で求めるとしている。

審議会は12月に内容に関して建議する予定で、来年1月からの通常国会で法案が審議される見通しだ。

良質な雇用をつくる取り組み

連合はこれまでにも、すべての若者に良質な就労機会を実現する施策に取り組んできた。民主党政権時代の「雇用戦略対話」(2013年)では、良質な雇用の創出■若者への投資■働き続けられる環境の整備■地域における連携─を主張。「働く力をつける」「働く場と結ぶ」「働き続けられる」というトータルな視点での施策イメージを構築してきた。この中で若者と働く場を結ぶための取り組みとして、就職関連の情報開示の強化も訴えてきた。

その後、2015年9月に若者雇用促進法が成立した。若者雇用促進法は、新卒者の募集を行う企業に対し、応募者等から求めがあった場合は、(1)募集・採用に関する状況(2)職業能力の開発・向上に関する状況(3)企業における雇用管理に関する状況─の3類型ごとに1つ以上の情報提供を義務付けている。

この法律に関して、連合は同年11月に関連する取り組み方針を確認した。この中では、雇用のミスマッチの解消のため、次の事項を会社に求めることとした。

(1)応募者等からの求めがなくても「青少年雇用情報」を開示すること

(2)労働組合に関する情報(労働組合の名称、上部団体など)を開示すること

(3)応募者等から求めがあった場合には、「青少年雇用情報」に加えて情報を提供すること

また、就労前に労働条件を書面で明示することや、固定残業代や試用期間を明示することを会社に求めていくことを確認した。連合の安永貴夫副事務局長は、「労働組合が会社の求人情報をチェックして、実態と照らし合わせてほしい。実態と異なる部分があれば、訂正させる必要がある」と労働組合の役割を強調する。

取り組み方針ではこのほかにも、若者が働き続けられる職場環境になっているか、賃金や労働時間、教育・研修などに関してチェックするよう求めている。厚生労働省が認定する「ユースエール認定制度」の活用に関しても、従業員数の規模にかかわらず制度の認定基準を満たすことを方針に盛り込んだ。

労働組合にとってチャンス

実際の労働条件とは異なる求人情報によって求職者が不利益を被るケースが後を絶たない。こうした状況に関して、渡辺さんは、「人手不足だから労働条件を良く見せる広告を出さないと人が集まらないのではなく、正しい情報を公開して、信頼を勝ち得た結果、人を採用できる労働市場にすべきです。誠実な企業が損をするような不公正な競争を放置してはいけない」と訴える。

安永副事務局長は、「人手不足は労働組合にとってチャンスにもなる。労働組合のある会社だから安心して入社してくださいと言える環境をつくっていくべきです。虚偽の求人で人を集めて、使い潰すような〈ブラック企業〉は公表されて、人が集まらなくなるような流れをつくっていかないといけない」と話す。

人手不足を働きやすい社会の実現に向けた好循環につなげるために、労働組合に求められる役割は大きい。ぜひ、自社の求人情報をチェックすることから始めてほしい。

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