特集2016.12

人手不足と労働組合『60歳+α』ではダメ
高年齢者雇用を視野に入れた能力開発を

2016/12/15
人手不足の中で高年齢者雇用に注目が集まっている。65歳まで働き続ける制度が整備される中で、企業はどのように高年齢者の活躍を促進していくべきか。識者に聞いた。
戎野 淑子 立正大学経済学部教授

人手不足と高年齢者

若者・女性だけではなく高年齢者の活躍促進に注目が集まっている。

背景にあるのはやはり人手不足だ。総務省によると60歳未満の就業者数は1997年の5680万人をピークに2015年は5112万人まで減少。一方、60歳以上の就業者は2005年の937万人から2015年の1264万人まで増加している(総務省・労働力調査、「平成28年度版 労働経済の分析」)。

60歳未満、60歳以上別就業者数と就業率の変化
(資料出所)厚生労働省「平成28年度版 労働経済の分析」

「労働力人口が減少する中で、働く人たちの高年齢化も同時に進んでいます。高年齢者の活躍促進は、企業のみならず、社会全体にとっても大切な課題です」。高年齢者雇用に詳しい立正大学経済学部の戎野淑子教授はこう話す。

高年齢者雇用の問題は、これまで年金の支給開始年齢の問題とセットで議論されてきた。2013年4月から厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢が引き上げられ、段階的に65歳まで無年金状態が生じるようになった。これに伴い、改正高年齢者雇用安定法が同月に施行された。この改正では「継続雇用制度」の対象者を労使協定で限定できる仕組みが廃止された。これにより定年の引き上げや定年の定めを廃止していない企業でも、希望者全員を継続雇用する制度の導入が義務付けられた。

戎野教授は、「日本の高年齢者は就労意欲が高いという特徴があります。高年齢者の能力をどう引き出すか、働く場をどう作っていくかが課題になっています」と解説する。

『60歳+α』ではダメ

ところが、企業はこうした課題に対応しきれていないと戎野教授は指摘する。

「企業が高年齢者雇用安定法にどう対応しているかというと、8割以上の企業が継続雇用制度(再雇用制度)を利用しています。そして、定年前と同じ職場で同じ仕事をしているケースが多いです。つまり、改正法施行後に、大きな変化はありませんでした。60歳定年で仕事も処遇も完結してしまって、再雇用後の働き方が、60歳定年『+α』としていた以前の姿のままです。希望者は全員65歳まで働くことになっても、どんな仕事をやってもらうのか、どうやって能力を生かしてもらうのか、そういう新たな体制が整っていません」

戎野教授が携わった調査によると、再雇用後の労働者に対して何を期待して、どのような仕事をしてもらうかを告知していない企業の割合は6割弱に上るという。この数字に反映されるように、多くの企業は再雇用後の労働者に対して何をしてもらうかを明確化して伝えていない。そして、現役時と同じように仕事をしているのに、賃金だけ5~6割に減らされる。仕事上での期待度も低いと思われている。

こうした状況で、再雇用後の労働者の中にはモチベーションを保てない人も少なくない。そして、周りで忙しくしている現役世代の社員たちは、そんなモチベーションの低い高年齢労働者に渋い顔をする。このような高年齢労働者が、賃上げを要望しても、それに見合った働きがないため実現は難しく、また、企業も、賃金相応の仕事の割り振りができていない─。戎野教授は、こうした手詰まり状態のケースが多いと指摘する。

「継続雇用という65歳までの雇用制度は導入されましたが、企業の運用も労働者の認識もついてきていません」と戎野教授は話す。人手不足にもかかわらず、企業は高年齢労働者の対応に手をこまねいている。

高年齢者をどう生かす

戎野教授は、「再雇用後も現役時代と同じ仕事を皆が続けるのではなく、人手不足の分野や、これからの成長分野にも定年再雇用後の労働者を積極的に動かしていくべきです。つまり、65歳までの一貫した人事制度を作っていかなければなりません」と話す。

好事例はある。ある建設会社では、経験豊富なベテラン社員が足りず、現場監督を務める中堅社員が苦労していた。そこに高年齢労働者が、いくつかの現場を掛け持ち、中堅社員に助言する仕事を作った。中堅社員からは感謝され、高年齢労働者も仕事にやりがいを感じられるようになった。

「つまるところは能力を生かせるかです」と戎野教授は指摘する。これまでの企業は60歳定年の人事制度のもと、高年齢者雇用に対する能力開発を行ってこなかった。一方、働く側も自身の能力に不安を抱えている。労働調査協議会の調査によると、年金支給年齢まで働き続けられないかもしれないと思う人にその理由を尋ねたところ、半数近くの人が職業能力の衰えを挙げた。戎野教授は、「能力開発をしないから、人手不足や成長分野に人を動かせない。今後、人手不足がさらに顕在化する中で、最低65歳までの雇用を見据えた能力開発がポイントになるはずです」と訴える。

多様な処遇の実現へ

高年齢者の働き方に関して、企業を悩ませるのは処遇の問題だ。戎野教授は制度設計ができていない企業が多いとして、こう指摘する。

「これまでは年金が支給されるから、生活水準の維持が図られるところまでは、高年齢者の賃金は下げられる。そういう理屈でやってきました。ところが、いまや年金支給はなくなってしまった。それにより、高年齢者も現役世代と変わらず生計を立てていかなければなりません。ここには、どんな仕事をしていても60歳以上だから賃金を一律に下げてもいいという理屈は成り立ちません。賃金設定の根拠を示して、納得性を高める必要があります」

「また、高年齢労働者も多様です。本人の健康のこと、家族の介護のことなど、働ける条件は一様ではありません。ですから、その働き方も複線型になるはずです。週3日働く人から、フルタイムで現役時代と同じように働きたい人もいます。その中で、処遇も多様化させていくべきではないでしょうか」

高年齢者の声を届ける

「人手不足の中にあって、企業は多様な労働力を組み合わせて、力を発揮させないといけません。これまで100の力で働いていた人が、60歳を超えて体力が落ちて80の力になり、短時間勤務になったとしても、その力を積み重ねれば、全体の力は大きくなります」と戎野教授は指摘する。

同じことは、高年齢者だけでなく、育児や介護をする労働者に対する仕事の割り振りに関しても言える。

戎野教授は「高年齢者雇用に関しても、仕事の切り出しがうまくいっている職場は、労働者の能力を上手に生かしています。今のうちから職場全体の仕事を見つめ直し、配分の仕方を整理しておく必要があります。企業にとってもそれが生命線になるはずです」と指摘する。

最後に戎野教授は、労働組合の役割についてこう述べる。

「再雇用後の労働者を組織化している労働組合は、実は少数派です。高年齢者がその能力を生かすためには、働く人たちの声を経営者に届ける必要があります。労働組合が高年齢者を組織化してその声を届ける活動が、より一層重要になっています」

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