グローバル化に怒る労働者の反乱は「マイルドヤンキー革命」なのか
「今日までのあらゆる社会の歴史は、階級闘争の歴史である」
マルクス・エンゲルスの『共産党宣言』の一節だ。今日において闘争しているのは誰と誰なのだろうか。単に資本家と労働者の闘争ではない。実は労働者同士の闘争が始まっているのではないか。政治家や資本家はどんな労働者の味方をするのか。
2016年の重大ニュースと言えば、イギリスのEU離脱、そしてトランプ氏がアメリカ大統領に当選したことだ。ともに、当初の大方の予想とは異なる結果だった。世界に衝撃が走った。
筆者は国際教養学部の教員をしつつも、国際関係、海外事情に関しては素人に近い。選挙や国民投票などの意思決定の仕組みについても詳しいわけではない。ただ、この二つの現象はどこかでつながっていると捉えた。それは、グローバル化に疑問を持つ庶民の怒りではないだろうか。労働者間の闘争でもある。
トランプ氏に関しては、「暴言」とも言える発言が問題視されたのも事実である。移民の強制送還、メキシコとの国境に壁を設けるなど、人種差別とも言える発言まで飛び出した。人種に対して差別的な言動は許されるものではないと私は考える。
しかし、大接戦の上の勝利とはいえ、彼が支持されてしまったという現象については、常識と感情を手放して考えなくてはならない。トランプ氏勝利に関しては多くの事前調査と違う結果であったため、従来の社会調査の限界も指摘されている。事後の分析においては、グローバル化から取り残された、これからますますの凋落が予想される「中の下」層の白人や、内陸部の人、ポリティカリー・コレクトネスに疲れた人々が支持したのではないかという論がよくメディアで紹介されている。
個人的に奇妙だと思っているのは、トランプ氏は言うまでもなく不動産王であり、資産家だ。同じような階級の支持者も多いことだろう。資本家とある層の労働者が手を組み、グローバル資本主義を推進する資本家やその流れに乗っている労働者と闘っているかのように見える。トランプ氏もまたグローバル資本主義の恩恵を受けている人なのに。
ふと「マイルドヤンキー」という言葉を思い出した。博報堂の原田曜平氏が『ヤンキー経済』(幻冬舎新書)で提唱したコンセプトだ。「ユーキャン新語・流行語大賞」にもノミネートされた。簡単に言うと、地元や、家族、同年代の友人や家族との仲間意識を基盤とした生活をしている若者のことである。従来のヤンキー像とは違い、非行に走るわけではないのも特徴だ。「EXILE」などを愛することも特徴だという。
前出の本に関しては、正直、がっかりだった。旧来のヤンキー像とは異なると言いつつ、その手の人たちを事例にして語っており矛盾が多々ある。ただ、本書が指摘する地元・家族・仲間を基盤とする者は全世界的に一定数いるのではないか。EU離脱も、トランプ現象も、マイルドヤンキー革命のように見える。
労働者と労働者が闘う時代にすでになっている。もっとも、それぞれの労働者が権利を主張すること、利害関係の重なる部分を見いだすことはサボってはいけないことだろう。労働組合もこのような多様性と向き合わなくてはならない。