常見陽平のはたらく道2017.03

なくてはならない存在として物申す
「ヒラメ企業」の処世術

2017/03/16
親企業のことばかりを見る「ヒラメ企業」の「働き方改革」はどうあるべきか。取引先問題を考察する。

「コスト削減は、しばらくお休みにします」

新任の社長がそう言った瞬間、従業員から歓喜の声が湧き上がった。リクルートグループのクリエーティブを担う企業、リクルートメディアコミュニケーションズ(現リクルートコミュニケーションズ)のキックオフでの光景である。十数年前の出来事だった。

当時、同社に出向していた同期にメールした。実態がどうなったのか、聞きたかったからだ。この言葉は社員の心に響いていて、現場の士気が上がっているとのことだった。単に言葉でモチベーションを上げるだけでなく、実際にバリューアップに関する面白い取り組みが行われ始めているとのことだった。

大手企業のグループ会社は、ジレンマを抱えている。経営方針から業績まで親会社に左右されがちである。メインの取引先が親会社やグループ会社なので、その期待を満たすサービスを提供しなくてはならない。コスト削減や納期の改善も要求される。自社のグループ以外に取引先を増やす企業も中にはあるが、それすらも親会社からコントロールされることだってある。

グループの仕事を担う企業というのは構造的な問題を抱えているということがよくわかる。冒頭で紹介した経営者のような強力なリーダーがいて、企業として大事にするべきことを明確にした上で、関係性を改善してくれるなら話は別だが。

いや、グループ企業はまだ良い。グループの主幹企業と大きな仕事に取り組むことができる、福利厚生がそのグループの主要企業並みなどのメリットがあるからだ。資本関係がないにもかかわらず、ある大手企業の仕事が売上の大部分を占める企業はどうすればいいか。まさに下請け問題である。企業努力が足りないと言われればそれまでだが、そう言い切れるだろうか。取引先を開拓する体力もなく、主要取引先の大手企業への服従体制ができ上がっている。

ここまで読んで、ハッと気付いた読者もいることだろう。そう、これは電通問題ともつながる話なのだ。取引先からの過剰な依頼をどこまで受けるか、これは日本企業が直面している課題であり、長時間労働を是正するための大きな論点である。しかし、企業規模にかかわらず、取引先は依頼主に従わざるを得ないという問題が発生する。この問題が放置されると、「働き方改革」の号令の下、大手企業を中心にホワイト企業が生まれるが、結果としてその取引先に隠れブラック企業が増えていくという構造になる。

長時間労働を是正する上でも、健全な取引関係を構築する上でも、親会社とグループ会社の関係などにおいて、先方の労働環境を悪化させるような無理なオーダーは抑制するべきである。「ヒラメ企業」と呼ばれる、グループ企業ではこれが実現しやすいのではないか。発注側から変わるべきだが、依頼される側もパートナーとして物申すべきである。

プロレスに例えると取引先はタッグパートナーであるはずだ。対戦相手ではない。仲間を攻撃しては、勝てるはずがない。ともに栄えるために、まずはグループ内連携から、取引先との関係を健全化することを考えたい。

常見 陽平(つねみ ようへい) 千葉商科大学専任講師。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所客員研究員。『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『普通に働け』(イースト新書)、『僕たちはガンダムのジムである』(ヴィレッジブックス)、『「できる人」という幻想』(NHK出版新書)など著書多数。
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