特集2017.10

労使コミュニケーション再考経営者に響く労働組合の提案は?
労働組合は人手不足を活用すべし

2017/10/05
経営者の視点から労使コミュニケーションを考えてみる。労働組合はどのようなアプローチができるだろうか。自身も人事業務を経験し、現在は経営者や人事担当者向けのセミナーも数多くこなす、常見陽平さんに聞いた。
常見 陽平 千葉商科大学専任講師

「もうかる意見」なら聞く

私が勤めていた会社では、新入社員が社長と一緒にランチをとる会がありました。社内の飲み会に経費を使うことも許されていました。社内改革を進める電通も従業員の意見を反映させています。

経営者がこれほど従業員とコミュニケーションを取りたがっている時代はありません。ただ、従業員の意見は聞くのに、それが労働組合の意見だと身構えてしまう。労働組合の代表だとなぜ話を聞こうとしないのかが問われていると思います。

会社を動かしているボトムアップ型の組織は大手企業でもたくさんあります。ただし、それが労働組合ではない。労働組合のある大手企業でも社内交流会がたくさん立ち上がっていて、新規事業の創出や働き方改革の議論を社内や社会に盛んに発信しています。それをなぜ労働組合ができなかったのか。企業内コミュニティーの変質に注目する必要があります。労働組合は軽視される存在になってはいないでしょうか。

経営者はエース社員の意見は聞きますし、辞めてほしくないから若手の意見も聞きます。経営者が耳を傾けるのは、露骨に言えば「もうかる意見」です。資本主義の権化みたいな話ですが、「もうかる提案」を労働組合もする必要があると思います。

人手不足というチャンス

私は少子化が社会を変えることに希望を持っています。人事担当者向けのセミナーでは、「人を採用できない企業は生き残れないと、経営者にたたきつけろ」とたき付けています。人口減少は実際に始まっていて、地方だと顕著に起きています。労働条件に魅力がないと人が採れません。現場をよく知る労働組合にとって、これは最後のチャンスです。

働きやすい職場とは何か、こうすれば採用できる、早期退職しない。そういうことを労働組合が提案できるかどうかにかかっています。経営者が考えもしなかったような発想の軸を提起することも大切でしょう。これから求められるオフィスのあり方や、優秀な女性を採るための働き方のあり方。労働組合がこうしたポイントで対話している例は少ないと思います。

私なら、賃金や労働時間よりも、採用達成率や早期離職率といったデータを経営者や人事部に突きつけて闘います。ぎくっとするはずですよ。労使コミュニケーションの突破口は人手不足にある。これは揺るぎない結論です。

労・労コミュニケーション

もう一つ私が希望を抱くのはオフィス内コミュニティーに対してです。先般、新宿三井ビルディングが主催する「のど自慢大会」を取材しました。企業や雇用形態の枠を超えてすさまじい盛り上がりを見せています。主催する三井不動産の担当者は、震災以降、大会に懸ける思いが強くなったと説明しました。震災などの有事の際に対応できるよう、顔の見える関係をつくっておきたいということでした。

こののど自慢大会もそうですが、働く人の思考が「モノ」から「コト」に変わっています。そういうトレンドを労働組合も取り入れるべきです。厳しい見方をすれば、労働組合は若手社員の気持ちを会社よりもわかっていないのではないかと思います。労働組合が労働者同士のコミュニケーションの媒介になっているかが問われています。

経営者は意見を聞いて

経営者は労働組合の意見をもっと聞いた方が良いのは間違いありません。

若者がよく辞めるような会社に将来はないと言っています。なぜなら、そのビジネスモデルが世間とずれているからです。それは環境の変化を経営者が読み取れていないということです。労働組合の意見の変化も環境の変化だと捉えてください。従業員が気持ちよく働けない会社に未来はありません。

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