労使コミュニケーション再考労使コミュニケーションの切り札になるか
「労働者代表制」の導入を考える
─労働者代表制の導入を訴える理由は?
労働組合の組織率は約17%。労使の話し合いの場がない中で、労働条件が決まる職場がほとんどです。経営者が労働条件を一方的に押し付けるブラック企業のような現実もあります。
対策としては、労働組合の組織化が基本です。ただ、低組織率という現状を踏まえると、労働組合とは異なるチャネルで労使が話し合いをする機会を設けるべきではないでしょうか。とりわけ、日本は雇用労働者の比率が高い「雇用社会」です。労使の話し合いの場がない現状を放置するわけにはいきません。
労働基準法に定めのある現在の「過半数代表者」は、うまく機能していません。会社の親睦会の責任者が「過半数代表者」に横滑りしたり、会社が指名したり、「過半数代表者」が民主的に選ばれていない職場が6割以上あります。このような状態で、過半数代表者に重要な役割を担わせていいのかという問題意識があります。
─現在想定している労働者代表制の内容は?
連合の「労働者代表制法案要綱」(2006年)に沿ったものがベターだと考えています。
制度のポイントは、過半数組合のないところに労働者代表制を導入することです。過半数労働組合のある職場は、過半数労働組合が労働者代表委員会を兼ねます。
労働者代表委員は、民主的な手続きを担保するため、選挙管理委員会を設立し、無記名投票で選出します。
労働者代表委員の人数は、事業所の規模に応じて決まることになりますが、女性や雇用形態などの属性に応じた選出方法などは、連合案でも定まっていません。ポイントは、労働者代表委員は、すべての労働者の代表であるということです。そのため過半数労働組合が、組合員以外の声をどのように反映させるのかが課題になります。
労働者代表委員会は、過半数代表者が担っている労使協定を締結する機能を担います。その協定は現状で約110ほどあります。また、労働者代表制は、協定の締結だけではなく、事後のチェックも行うため、常設の機関とします。
─労働者代表制の運営は?
労働組合と違って労働者代表委員には、活動中の賃金が保障されます。事務所の貸与や教育訓練も事業者に義務付けられます。過半数労働組合が労働者代表委員を兼務すると、労働者代表委員としての活動には賃金保障などが義務付けられます。これは既存の労働組合にとっても大きなメリットになると思います。
例えば、ドイツの従業員代表組織には専従の従業員もいます。それほど重要な仕事だからです。しかも賃金は会社負担です。
─労働者代表制と労働組合のすみ分けは?
労使の取り決めには、法定基準解除機能と労働条件設定機能とがあります。前者は36協定のように労使協定を締結すると法律の規定を解除できる機能です。後者は賃金交渉のように労働条件を設定する機能です。
後者は労働組合の機能と重なるため、労働者代表制には持たせるべきではないという意見があります。連合案も法定基準解除機能に限定するものになっています。
ただ、これは個人の見解ですが、労働組合権を侵害しない範囲内で労働者代表制に法定基準設定機能を持たせてもよいと考えています。法定基準解除機能といっても、実際は労働条件設定機能に踏み込む領域もあるからです。この場合、ストライキ権や労働協約締結権は、労働者代表制に持たせないことですみ分けを図ります。
─少数組合の課題はありますか。
労働者代表制には労働協約の締結権がありません。また、少数組合の労働協約締結権を排除するものではありません。
労働者代表委員と少数組合との意見が食い違う場合は、少数組合が自分たちの意見を労働者代表委員の中でどれだけ反映できるかが課題となります。意見を反映できない場合は、使用者と直接、協定を結ぶことになります。
連合案では、労働者代表委員への立候補には10人以上の推薦が必要ですが、労働組合からの候補者であれば、推薦人が不要という仕組みを提起しています。また、少数組合の代表者は労働者代表委員会を傍聴できることにしています。いずれにしても、少数組合が代表制度の中で、いかに意見を反映できるかがポイントになるでしょう。
─労働者代表制を機能させるためには、労働者の意識を高める必要を訴えています。
意識変革に特効薬はありません。制度の導入から会社との交渉という経験を通じて、労使自治に向けた感性を磨いていくしかありません。
制度導入に向けて、働く人たちの声を高める必要があります。多くの事業所に労働組合がなく、労働条件に関する話し合いがないままに、経営者が一方的に決める職場が社会にまん延しています。この状況を鑑みれば、多くの人が制度の必要性を認識してくれると考えています。
労働者代表制は、社内の風通しを良くすることや、生産性の向上で企業に貢献します。経営者にとっても悪い話ではありません。