特集2017.10

労使コミュニケーション再考実践:労使協議会・団体交渉のポイント
組合員の声を聞き、自信を持って交渉へ

2017/10/05
労使コミュニケーションの場である労使協議会と団体交渉。実践するにあたってのポイントを解説する。
水野 和人 情報労連組織対策局長

参考

日本国憲法第28条

勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。

労働組合法第6条

労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者は、労働組合又は組合員のために使用者又はその団体と労働協約の締結その他の事項に関して交渉する権限を有する。

労働組合法第14条

労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する労働協約は、書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印することによってその効力を生ずる。

1.そもそも団体交渉と労使協議会の違いとは?

Q.団体交渉と労使協議会は、何が違うのでしょうか。

A.団体交渉は、憲法第28条および労働組合法第6条に定められた労働組合の権利です。一人ひとりでは立場の弱い労働者が団結し、会社側と対等の立場に立って、自らの雇用・労働条件について話し合う場であり、正当な団体交渉の要求を会社側は拒否することはできません。正当な団体交渉を行ったことを理由に、組合役員や組合員の解雇など、不当な扱いをすることは、不当労働行為として禁止されています。

一方、労使協議会については、法的な根拠があるものではなく、労使が協力・協調して情報共有や認識の一致を図ることを目的とする場で、労使間の合意に基づき開催されます。従って、労働条件にかかわる事項のみならず、経営環境や会社の経営方針・ビジョンなどを含めた協議が行われています。労使が詳細な経営情報を共有し、積極的な意見交換を行うことは、ステークホルダーとしての労働組合のチェック機能の発揮という役割もありますし、団体交渉を円滑に行うためにも有効な場であります。

厚生労働省の「労使コミュニケーション調査」(2014年)では、労使協議機関を設置している事業所は全体で40.3%ですが、そのうち、労働組合がある事業所では、82.6%で設置されており、労働組合が積極的に労使協議会を活用していることがうかがえます。

2.団体交渉の申し入れ・ルール

Q.団体交渉を行う際のルールや、その設定・勤務時間の交渉の扱いなどを教えてください。

A.団体交渉や労使協議にかかわるルールについては、労使の合意で決めるのが基本です。開催申し入れの方法や出席者の範囲、扱う項目など事前に取り決め、労働協約化を図ることでトラブルを防ぐことができます。

団体交渉などの開催時間について労組法第7条3号には、「労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することは使用者が許すこと」は、支配介入に当たらないとしています。役員の負担も鑑みれば、団体交渉を勤務時間内に実施できるよう、その際の賃金支払いを会社側に認めさせる労働協約を締結しましょう。

また、近年、団体交渉の場に会社側が弁護士や社会保険労務士を同席させ、強引な交渉を進める事例が増えています。しかし、団体交渉は、決定権を有する者同士が行うべきであり、決定権を有しない者は交渉の補佐役にしかすぎません。その場合は、強く注意し、やめるようにすべきです。

一方、労働者側の上部団体(情報労連・県協など)は、前述の労組法第6条にもある通り、「労働組合の委任を受けた者」として、団体交渉に出席することができますので、団体交渉の重要な局面では、上部団体役員の出席を依頼することも交渉を円滑に進めるための手法です。

3.労使協議会・団体交渉に向けた準備

Q.労使協議会・団体交渉に臨むにあたり心掛ける点などはありますか。

A.労使協議会・団体交渉にあたり、重要なことは労働組合として事前にどれだけの情報を把握しておくかに尽きるかと思います。取り扱う事案に応じ、会社の財務状況や現行の労働条件(労働協約や就業規則の確認)、伴う労働法制、そして何より、職場組合員からの声をどれだけ把握しているかが強みとなります。日頃から、職場組合員との対話を重ねる努力が欠かせません。

それらの情報を把握した上で、当日の出席者全員で、(1)交渉に臨む方針・獲得目標と進め方(2)具体的な質問事項と役割分担(3)組合要求の根拠と会社側の反論に対する見解(4)今後のスケジュール─などについて、事前の打ち合わせをしましょう。とりわけ、事業や労働条件の見直しを協議するのであれば、見直しの必要性や背景のみならず、見直しによって組合員にどのような影響が及ぶのか、きちんと質問するようにしましょう。

Q.交渉を進めるにあたって気を付けることはありますか。

A.そこまでの準備ができたら、いざ労使協議会・団体交渉に臨むことになります。緊張するでしょうし、相手がとてつもなく大きく見えてしまうかもしれません。しかし、団体交渉は対等な労使関係の下、現場組合員の声・実態を会社側に伝える場であります。つい、緊張から大きな声を張り上げてしまいがちですが、交渉事は勝った・負けたではありません。冷静に組合側の主張を伝え、相手側の主張を聞き出すことも重要です。

その中で、お互いの対立点を明確にし、対立点を埋めるために、どうすればいいのか、大局的に見て双方に利益のあるような判断を心掛けてください。そういったWin-Winの関係、協調的な労使信頼関係によって、事業の長期的・継続的な発展をめざすことが、組合員の雇用・労働条件を守ることにつながります。

4.交渉後の展開

Q.交渉を終えた後は、どんなことをすればいいですか。

A.まず、労使双方が合意に至った時には、速やかに労働協約の締結を行いますが、この際、必ず双方署名押印するようにしてください。労働組合法第14条の定めにより、労使双方の署名捺印がなければ、協約の効力は発生しません。

逆に、合意に至らなかった場合は、次回の場の設定について確認しましょう。また、協議後は、労使ともに「言った」「言わない」を防止するため、議事録(団体交渉記録書)を作成します。こちらも労使双方署名押印を忘れないようにしてください。あわせて、終了後はできる限り速やかに、組合側出席者で打ち合わせを行い、交渉の到達点と次回の課題を整理し、余裕があれば、次回に向けた再要求の作成や質問項目の作成等も準備するといいと思います。

そして、最も大事なことは、会社側と協議した内容を職場組合員に対し伝え、「見える化」することです。とりわけ、賃金や労働条件に関する課題は、多くの組合員が関心を持っています。せっかく皆さんが苦労して会社と交渉しても、それを組合員にタイムリーに伝えなければ、組合に対する評価を得られないばかりか、不信感を募らせることにもなりかねません。また、職場の業務運営にかかわる協議であれば、皆さんの気付かない職場の課題等も挙げられるかもしれません。組合員との対話を重ねる中で、交渉・協議の前進をめざしましょう。

最後に

組合員を代表し会社側と交渉することは、大きな責任が伴うことから、その心労もひとかたならぬものと思います。であるからこそ、その責任を一人で背負うのではなく、執行部全体で共有し取り組むことが大切です。そして、より多くの組合員からの声を聞き、組合員の後押しの下、自信を持って、その声を会社側に伝えていきましょう。

悩みがあれば、ぜひお近くの情報労連役員にもご相談ください。

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