特集2017.10

労使コミュニケーション再考労働委員会の視点から見た集団的労使関係のいま

2017/10/05
集団的労使紛争を取り扱う労働委員会の視点から、集団的労使関係の現状と課題について語ってもらった。健全な労使関係を構築するには何が必要だろうか。
森嶋 正治 元中央労働委員会労働者委員
元情報労連中央執行委員長

労働委員会の概要

現行の労働委員会は、憲法第28条の労働基本権を保障するため、労働組合が使用者と対等な立場で交渉することを促進する機関として1949年に設置されました。労働委員会は、正当な組合活動を使用者が阻害したり、労働組合員であることを理由にして組合および組合員に不利益な取り扱いをしたりする不当労働行為事件などに対応しています。

労働委員会は現在、全国で年間900件程度の不当労働行為を審査しています。また個別労使紛争のあっせんや、相談・助言活動なども行っています。全体的な傾向として不当労働行為の審査事件は漸減し、個別紛争事件が増加傾向にあります。集団的な労使紛争を扱う労働委員会でも、労働組合の組織率低下により、個別紛争を扱うケースが増えています。

近年の労使紛争の特徴

産業構造や雇用システムの変化に伴い、未組織労働者が増えるに連れて、その人たちの不満や不安、労使トラブルは、労働組合ではなく労働審判や労働局などの個別労使紛争の処理機関に持ち込まれるようになりました。その不満の一部は、地域の合同労組に持ち込まれます。

合同労組の組合員になれば、それは労働組合と使用者との集団的労使紛争になるので、紛争は労働委員会に持ち込まれます。企業経営者は合同労組に対する拒否反応が強く、紛争が先鋭化するケースが見られました。こうしたケースは、企業内労働組合や労使関係で収集しきれなかった個別的要素の強い問題が、外部の合同労組を通じて労働委員会に持ち込まれた事例と言うことができ、近年の特徴的な傾向の一つです。

もう一つの特徴は、雇用関係の多様化に伴う紛争が増えているということです。多様化の一つ目は、企業の分割再編などにより、親会社とグループ企業のように自分の雇い主以外に労働条件に影響を及ぼす使用者が増えていること。二つ目は、個人請負やフランチャイズ型のような「非雇用」の働き方が増加していること。三つ目は、派遣労働者の増加です。

このように雇用関係が多様化することで、働く人たちの「労働者性」や、「使用者性」が問われる事例が増えています。

健全な労使関係を築くには?

健全な労使関係を構築するために、使用者に求められるのは、労働関係法に対する無理解を克服すること。もう一つは、健全な労使関係を構築することこそ、高い生産性を生み出すと理解することだと思います。

一方で、労働組合に求められるのは、労使の基本的なベクトルは合わせておくことだと思います。労働条件や分配の観点で労使が対立することはあっても、企業を良くしていこうという基本的なベクトルが合っていれば多少のもめ事は乗り越えられるはずです。質の高い労働力を提供する意思を明確にすることも大切です。

もちろん、労使関係はなれ合いや協調だけではいけません。協調と緊張のバランスの中で労使関係を構築することが求められます。労使紛争の長期化は、労働者にも良い結果をもたらさないと自覚して問題解決に望んでほしいと思います。

集団的労使関係の発展を

個別労使紛争の解決件数は増加していますが、その多くは金銭解決なのが実態です。残念ながら、紛争解決が雇用継続や職場復帰につながらないケースが増えています。

集団的労使関係の良いところは、労使関係を維持・発展させて、それを企業の発展につなげていけることです。集団的労使関係の意義を再認識し、発展させることが、労働委員会にも労使にも求められていると思います。

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