常見陽平のはたらく道2017.12

「働き方」が食い物にされた1年
2017年の労働問題を振り返る

2017/12/14
2017年の労働問題を振り返ってみる。ポエム的なスローガンは打ち出されても、目の前の労働問題は解決しないままだった。

2013年版から『現代用語の基礎知識』の執筆を担当している。2018年版は「働き方事情」のコーナーを担当した。ここから「2017年ユーキャン新語・流行語大賞」の候補に三つの言葉がノミネートされた(この賞にノミネートされるのは、同誌に載っていることが原則だ)。「働き方改革」「プレミアム・フライデー」「人生100年時代」である。候補語は30だから、1割が私の担当ページから出たことになる。「働き方」が注目のキーワードだったことがわかる。このうち「プレミアム・フライデー」はトップテンに入った。

もっとも、私は同誌の中でこれらの言葉をポジティブに取り上げたわけではない。その茶番も含めたドタバタが話題になったということか。

「働き方改革実現会議」は、労働者の意見を吸い上げる場ではなく、むしろ労働者を手なずける場であった。過労死ラインを超える労働時間が容認されてしまった。自民党と経団連の悲願である高度プロフェッショナル制度、裁量労働制の拡大が実現しようとしている。

「プレミアム・フライデー」は経団連会長も、経産相も見直しを明言した。うまくいっていないことを認めたようなものだ。忙しい月末の金曜日に早退など、現実的ではない。消費喚起なのか、働き方の改革なのかもよくわからなかった。

「人生100年時代」も、ポジティブな要素だけではない。一生働き続け、学び続けなければならない社会を意味していないか。労働力不足や、社会保障が崩壊することを言い訳しているようにも聞こえる。

「人づくり革命」「生産性革命」なる言葉も登場した。今までの取り組みがどうだったのか総括も十分に行われぬまま、新たにポエムを書きつづられても困惑してしまう。

このように俗耳になじむスローガン、政策風の単なる決意表明、普遍性を装った美しい言葉が横行する中、労働問題はいつも目の前にあった。NHKでも過労死事件が起こっていたことが発覚した。ヤマト運輸でのサービス残業が発覚した。Amazonをはじめとするネット通販による物流量増加による疲弊も問題となった。ゼリア新薬工業で研修時の指導により、新入社員が自殺した事件も明るみに出た。ブラック企業・ブラックバイト問題も解決するのはまだまだ先になりそうだ。「働き方改革」がこれだけ叫ばれても、目の前の労働問題に、終わりはない。衆議院選でもアベノミクスの成果が何度も喧伝されたが、労働者としても生活者としても実感が湧かない。

2018年は「働き方改革」の国会審議が本格化する。高度プロフェッショナル制度や裁量労働制の拡大も、ついに現実味を帯びてくる。今後、安倍政権がつくる労働社会がユートピアなのかディストピアなのか、明らかになる。

この局面においても大切なことは変わらない。あくまで労働者視点で、問題提起と解決策の提案を続けることではないだろうか。現実的に目の前の労働をより安全・安心なものにするために主張し続けなくてはならないのだ。

「働き方」がひたすら食い物にされた1年だった。2018年はより労働者視点の議論が行われ、安心労働社会が実現することを祈っている。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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