常見陽平のはたらく道2018.03

ワーク・ライフ・バランスの「ライフ」は「ワーク」である

2018/03/15
世の中的には「ライフ」と思われている家事・育児・介護。これらの実態は「ワーク」である。配慮がなければ仕事との両立はできない。

「今日の献立はどうしよう」

日々、こんなことを考えている。5年にわたる妊活の末、昨年の7月に43歳にして第一子を授かった。積極的に家事・育児に参加している。「できる限りやる」ではなく、「やらなければならないこと」だと位置付けている。

特に買い出し、料理や皿洗い、ゴミ出しなどは私の仕事だ。子どもが生まれる前から、担当している。日々の食材も含め買い物が好きだし、料理もプラモデルのようなものだと捉え、楽しんでいる。妻が「ウチは三食、自動的に出てくる」と言うと、ママ友たちは驚く。そんな家庭がこの世にあるのか、と。

総務省統計局の「平成28年社会生活基本調査」によると、日本人男性が家事関連にかける時間は1日あたり平均44分。女性の1日平均3時間28分に比べると5倍近い差がある。

私は1日平均3時間、家事を行っている。個人的には、楽しんで取り組んでいる。ただ、美しい話ばかりではない。

仕事との両立は楽ではない。いや、「両立」とは名ばかりだ。独身時代はもちろん、子どもが生まれる前よりも仕事の制約は増えた。長時間労働は避けるべきだが、もっと自由な時間で、よりじっくりと働きたいと思う瞬間もある。

特に、出張が入る瞬間などはなかなかスリリングだ。その期間の料理を作り置きしたり、妻と娘を埼玉の実家にクルマで送っていって対応する。スケジュールを共有し、やりくりする日々だ。

「イクメン」「イクボス」なる言葉が、定着しつつある。言葉は力を持つ。男性の育児への参加を促す言葉としての影響力は否定しない。

ただ、「イクメン」と言われたところで、仕事の量やルールなどの配慮が十分ではないまま、育児により積極的に参加しろと言われても困るのである。「イクボス」にしてもそうだ。管理職は日本企業を巡る環境変化、矛盾を抱え込んでいる。ビジネスモデルが変化する中、売上など目標の死守が期待される。育児や介護などと両立している社員などさまざまな社員をマネジメントしなくてはならない。負荷が増しているのである。「イクメン」「イクボス」という言葉が広がっても、配慮の連鎖がなくては単なる労働強化になってしまう。

娘のことが好きで、この子に、さらには日本社会の子どもたちに幸せに生きてもらいたいから、あえて言う。今こそ、家事は労働でもあるという共通の認識を持つべきではないか。ワーク・ライフ・バランスという、これまた美しい言葉が連呼されるが、「ライフ」と言ったところで、それが重要であり、やらざるを得ない場合は、「ワーク」の要素が大きくなる。「ライフ」という言葉を手放し、家事・育児・介護という「ワーク」に取り組んでいると認識したい。

子どもがいない社員、独身社員も含め育児体験に取り組ませる企業やNPOが現れつつある。単に「子どもはかわいい、素晴らしい」という話ではなく、これは労働であり、ましてや本業との両立は簡単ではないことを、改めて認識したい。

アンペイドワークを意識し、配慮しない社会に未来はない。掛け声だけの「イクメン」「イクボス」ムーブメントに私は警鐘を乱打したい。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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