「忖度」の起源を見つめ直し「忖度」社会を超えていけ
会社員時代のことだ。「忖度」して「データ」を「改ざん」したことがある。自分のタイムカードのデータを書き換えた。
上司から改ざんを指示されたわけではない。「残業時間を減らしてもらわないと」「やりくりしてほしい」と言われた。この言葉だけ読むと、仕事の効率を上げる、優先順位付けをするなどして労働時間を減らして欲しいという親心のようにも聞こえるだろう。実際は、サービス残業を促すものだった。
会社員時代の私が残業せざるを得なかったのは、任される仕事の絶対量が多い上、独身で仕事が頼みやすいからだった。しょうがないので電子タイムカードを36協定ラインよりも30分短い44時間30分に書き換えていた。
もっとも、まだ私は良い方で、どんなに長時間働いても10時間までしか残業をつけられない部署もあった。これは「忖度」を超え、サービス残業の強要そのものだった。
「忖度」は2018年の「ユーキャン新語・流行語大賞」の年間大賞にも選ばれた。受賞者は誰かと気になったが、「忖度まんじゅう」を出している株式会社ヘソプロダクション代表取締役の稲本ミノル氏だった。私はこの賞を運営する自由国民社の『現代用語の基礎知識』を執筆している関係で受賞式にお邪魔していたのだが、会場ではこのお菓子が配られた。見た目もかわいらしく、おいしかった。思わず、「忖度」してしまった。
この「忖度」という言葉が広がったのは、森友学園疑惑がきっかけだ。同学園の理事長だった籠池泰典氏の「直接の口利きはなかったが、忖度があったと思う」という発言からだった。辞書サイトでもトップクラスで検索された言葉だ。
「忖度」発言が飛び出したのは、昨年3月の国会での証人喚問の時だった。あれから1年。いまだに日本は「忖度」に振り回されている。森友学園問題は、2018年3月2日に朝日新聞が、国有地取引の際に財務省が作成した決裁文書について、契約当時のものと、昨年2月の問題発覚後に国会議員らに開示したものに違いがあることを報道した。それ以来、国会は紛糾した。
財務省理財局長だった佐川氏の証人喚問も行われた。彼に責任を押し付けるのも、その場での発言も「忖度」そのものだった。
「忖度」は日本の政と官のあり方を極めて的確に表現している。よく言うと、あうんの呼吸で、悪くいうと滅私的だ。
ここで、なぜ「忖度」が生まれるかについて、根本的な問題を考えてみたい。もちろん、やたらと空気を読む日本人とその組織という問題の話になるわけだが、それだけでなく、これは力学の問題だ。現状、官僚幹部の人事は内閣官房人事局が掌握している。ゆえに、官僚たちも閣僚ではなく、官邸を見て仕事をするようになる。これは構造的な問題だ。
日本の政治を揺るがす事件だが、政治家と官僚の問題にしてしまっていいのだろうか。むしろ「忖度」の問題はわれわれの目の前にある。忖度は、今日も日本の職場で起こっていないか。
「忖度」は誰かを裏切っていること、自分を殺していることを忘れてはならない。