常見陽平のはたらく道2018.12

労組とフリーライダー問題
いつの間にか、お世話になっている件

2018/12/12
労働組合なんて役に立たないというが、いつの間にかその活動の恩恵を受けていることはないだろうか。

1995年、阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件が起きた年に私は人生で初めてアメリカに行った。在米日本人にこんな笑い話を聞いた。

「俺は日本車なんか、大嫌いだ。だから、レクサスに乗るぜ」

こう、吐き捨てるように言ったアメリカ人がいるのだという。言うまでもなく、レクサスは日本発の高級車である。いわゆるアメリカンジョークなのかもしれない。真偽も定かではない。ただ、「さもありなん」という話ではある。

このように、批判というものは明らかに筋が悪いもの、勘違いしているものがある。SNS上でよく盛り上がるのが、労働組合批判だ。「御用組合」「労働貴族」「組合費の無駄遣い」「春闘とメーデーは伝統芸能」などというものだ。ただ、具体的な労働組合の取り組みや、提案内容を批判するのではなく、イメージで批判しているものがほとんどだ。相手にする必要もないレベルの揚げ足取りのようなものも散見される。

もっとも、このような声に対して労働組合が向き合い、説明し続けることも大切だ。特に何らかの問題が起きた際に、労働組合に至らない点があったなら、真摯に反省するべきだ。過労死事件などが起きるたびに「労組は何をやっていたのだ」という視点は持つべきだと私は考える。

労働組合関係者が声を大にして主張するべきなのは、実は労働組合が役立っていたという案件が多数あることだ。各社で導入が進んだ「勤務間インターバル制度」はまさに、情報労連のKDDI労組が努力の末に勝ち取ったものである。

情報労連は2009年から、労働者の健康を確保する目的で「勤務間インターバル制度」の導入を春闘の方針として掲げてきた。2015年の春闘でKDDI労組はこの導入を勝ち取った。長時間労働の防止抑制は労使の共通課題だった。36協定の順守や事前協議の徹底を行ってきたが、それでは長時間労働を前提とする対処に過ぎない。休息時間の確保を前提とする意識転換が必要だった。導入にあたっては、組合員からも否定的な意見があったが、執行部の主張により制度は導入された。

「勤務間インターバル制度」はKDDI労組発ではない。ただ、大企業での導入のインパクトは大きいと言えるだろう。その後、働き方改革関連法の成立で、2019年度からはこの制度の導入が努力義務とされた。もちろん、まだ努力義務である。この制度自体、運用によっては労働強化につながりかねないリスクはある。ただ、労組の取り組みが社会を動かした例だと言えるだろう。

連合は労政審で労働者を代表して意見を言い続けている。これに関しても連合は労働者を代表しているのかという批判はある。それでも、結果として労働者が恩恵を受けている点は多々ある。春闘や日々の労使交渉もこれと同じである。労組不要論を唱える者は、実はいつの間にか、自分がフリーライダーになっていることを自覚しているのだろうか。

労働組合としても、勝ち取ってきた成果は届く声で伝えていくべきだろう。失ってみて初めて、その存在に気付くこともある。労働組合がない会社と社会がどうなるかということについても、全力を振り絞って警鐘を乱打しなくてはならない。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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