いまさら日本企業で働く意味とは何か?
「退職エントリー」と呼ばれるものがある。文字通り、退職する際の思いを書きつづったものである。ネットの時代を象徴するものでもある。特に大企業の若手社員が書きつづったものはSNSで拡散する。
中には日本の労働社会の問題を物語るような、看過できないエントリーもある。「6年勤めたNTTを退職しました」は、情報労連関係者は必読である。NTTの研究所を退職し、Googleに転職した若手社員が、同所でのこれまでの6年間と、退職を決意した理由について書きつづっている。
注目するべきポイントは、NTTの研究所が職場としていかに素晴らしかったかということに、ほとんどの文字数が割かれているということだった。優秀な人材だらけであり、研究設備も予算も潤沢だ。研究に関してもビジネスのリターンだけで判断せず、姿勢が自由でありつつ、結果に対しても寛容だった。本人は裁量労働制もうまく活用しており、少ない労働時間で働いていた。国内外で通用するNTTブランドにも感謝していた。
しかし、報酬の面と、社内のシステム環境(過剰なセキュリティなど)が不満だった。より良い待遇で柔軟に働くことができるGoogleを選んだ。
メディアで「GAFA」という言葉を見掛ける機会が増えた。Google、Apple、Facebook、Amazonの略である。2018年の「ユーキャン新語・流行語大賞」にもノミネートされた。
プラットフォーマーの時代だ。彼らは業界を超えて既存の企業をすべてのみ込んでいき、ルールを徹底的に破壊していく。気付けば、手のひらの上で踊らされ、搾取されている。
人材の獲得においても、いつの間にか彼らとの熾烈な競争にさらされている。彼らは従業員に年次に関係なく破格の給与を支払うだけでなく、最高のオフィス環境を用意する。企業によっては社員食堂も無料だ。世界中から高い能力を持ったエンジニアが応募してくる。
GAFAはもはや、企業ではなくバーチャルな「国家」だと捉える人もいる。税金のように全世界から利用料を集め、法律のようにルールを定めている。「天下国家」づくりに関わることができるのも魅力だ。
NTTの研究所は優れている。情報労連も、新しい取り組みに前向きな労組だ。しかし、しょせんこれは日本国内においての話である。トップクラスの優秀な社員は、まだ貪欲に求める要素があるのである。
この移籍劇は特異な例だと捉えられるだろうし、絶対数でどこまでGAFAなどに人材が取られているのかは正確には把握しきれていない。ただ、日本の大手企業がトップクラスの優秀層には魅力がないものになっていることは真摯に受け止めなくてはならない。「世の中、金じゃない」という言葉は慰めにもならない。
労組も経営者も、世界に誇る魅力的な職場づくりの議論を深めなくてはならない。春闘などにおいても、目先の賃上げを超えて、これは働く人にとって魅力的なものとなり得るかという視点が必要だ。GAFAを超える魅力的な職場づくりが可能なのか。その差に絶望しつつも、希望を捨てずに議論しよう。