常見陽平のはたらく道2019.03

データ、ファクト不正列島を生きる

2019/03/14
日本を揺るがす統計不正問題。働く現場の視点からこの問題を読み解くと……。

「あれ、毎勤(毎月勤労統計調査)って、サンプル調査じゃないの?」

会社員時代の先輩がこうつぶやいた。ほぼ人事一筋の彼女は、数カ月に1回やってくるこの調査に回答する担当だった。一連の不正が明るみに出てから、本来は全数調査だったということに気付いたという。

本稿を書いている2月22日現在、この問題を巡る議論は国会でも紛糾している。真相はまだわからない。「毎月勤労統計調査を巡る問題」も細分化している。本来の調査方法とは異なる方法で行われていたこと、発覚してからの対応、アベノミクスの成果偽装だったのではないかという疑惑などだ。このデータは国家の根幹となるデータ。真相の究明は必須である。

公文書が改ざんされ、官民問わずにデータの不正がはびこる不正列島に私たちは生きている。一労働者として、この問題にどう向き合うかを考えたい。

データ、ファクトに関する不正をする人に対し、私は擁護も同情もしない。ただ、この世には怪しいデータ、ファクトがいつもあふれていないだろうか。これらを見栄えの良いものにしようとする輩があなたの周りにもいるのではないだろうか。

新入社員時代にいた営業部では、顧客に提案するための企画書やパンフレットにおいては、うそはついていないものの、やや誇張したデータが使われていた。調査方法が怪しいものも存在した。

人事部時代、内定者に対して採用プロセスの調査を行うためのリサーチ業者を選定しようとしていたことがあった。営業部から紹介を受けた会社の担当者と会って驚愕した。「今回は、どのようなデータを作りたいのですか?」と言ってきたのだ。事実を把握するための調査をするのではなく、営業に使えるデータを作り出す業者だった。もちろん、私はこの会社には依頼しなかった。

関西の有名私大では、霞が関で働く人たちを訪問するバスツアーを毎年、企画している。ある年、学生たちは先輩公務員の発言に絶句した。政府の方針と合うようなデータやファクトを探すような、無言の圧を感じることがあるというものだった。もちろん、不正を公言しているわけではない。ただ、見栄えの良いデータ、ファクトに走る体質が明らかになっていないか。

メディアが紹介するデータ、ファクトも怪しいデータの一部を切り取ったもの、調査方法に対する言及が十分ではないものなどは疑うべきだ。「若者の〇〇離れ」というような、いかにもネットでバズりそうなニュースは、そもそも若者が減っていることや、選択肢が増えていることを華麗にスルーしている。

では、われわれはどうすればいいだろうか。日々、「本当なのか?」「どのように調べたのか?」「どのような意味を持つのか?」と疑う姿勢が必要だろう。

特にビジネスの現場で自ら接するデータについては、慎重に扱い、時に疑問出しをすることが必要だ。不正は目の前で起きることもある。

データ、ファクトの不正は「麻薬」だ。一瞬、苦しみから逃れられるかもしれないが、かかわるすべての者をおかしくする。声を上げる勇気を持とう。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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