常見陽平のはたらく道2019.05

会社と社会を変える労働組合リーダーになろう

2019/05/14
労働組合のリーダーは会社や社会を変えることができる。ヒーローやヒロインになれるのだ。

意識高い系の行動パターンそのものだが、TBS系『情熱大陸』を毎週、欠かさず録画して見ている。会社員の頃は、毎回、感動し元気をもらい「今週もがんばろう」と誓い、床に就いていた。

今は情報収集のために見ている。各界で注目されているのはどのような人なのか、誰が今どきのヒーロー・ヒロインなのかというのは、気になるテーマではある。

この番組関連でいうと、『情熱大陸への執拗な情熱』というコミックエッセイが大変に面白い。文字通り著者の一漫画家としての『情熱大陸』への思いを描いたものだ。同番組出演をめざす者は、アサヒビールを愛飲する(スポンサーであるため)、葉加瀬太郎氏によるテーマ曲を愛聴するだけでなく、立ち食いそばを食べながらカメラ目線でしゃべる、ハンドルを左に切りながら話す、実家や通っていた学校を案内するなど、同番組でよく出てくるシーンの練習をするのだという。「上陸」するためには、ここまでの涙ぐましい努力が必要なのか。友人・知人が数人出たことがあるが、取材対応はなかなか大変だったそうだ。

この手のドキュメンタリーを見ていて、いつも疑問に思うことがある。労働組合関係者が、なぜ登場しないのかと。もちろん、まったく登場しないことはない。NHK『クローズアップ現代+』や『ガイアの夜明け』ではブラック企業と闘う労働組合関係者が登場した。以前、NHKで放送されていた『プロジェクトX』には「男女雇用機会均等法」成立、施行に取り組んだ労組関係者が描かれた。ただ、会社や社会を変えようとする労組関係者がもっとこの手の番組に登場しても良いのではないか。

この春も、さまざまな労組の春闘に向けた集会で講演をした。勉強会の講師として呼ばれるのだが、このような場では私の方が学ぶ立場になることがよくある。各労組のリーダーたちは、日々、よりよい労働条件を勝ち取るために闘っている。

生保労連や損保労連にお声掛けいただき、講演したことがあるが、業界内各社の若きエースが送り込まれていて、頼もしかった。彼らは労組専従で業界の改革に燃えていた。

労組のリーダーが社会的ムーブメントを起こすことがある。3月14日にはメディア系労組が立ち上がり、官邸前で記者会見の質問制限などに対する抗議行動をした。この行動を主導した新聞労連の南彰委員長は、朝日新聞政治部のエース記者だった。エースが業界・企業の枠を超えてムーブメントを起こした。

このように、労働組合の中にはヒーロー・ヒロインたちはいる。また、エースたちが労働組合の活動を通じて、会社や社会を変えることもある。エースたちは独自の視点で、業界や企業の問題点を直視しているし、解決策も持っている。この視点をぜひ、運動に取り入れていきたい。

社会運動、労働運動のやり方、あり方も変わっている。ネットを通じた署名運動、動画投稿サイトを使ったメッセージの共有などだ。きっとエースたちが新しい運動のあり方をつくり出すに違いない。新聞労連の南委員長のアクションなどはそのわかりやすい例だろう。

そのうち、情熱大陸に労組関係者が出ると信じている。それはあなたかもしれない。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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