常見陽平のはたらく道2019.06

シニアの有意義な働き方を考える
若手と互いにリスペクトを

2019/06/10
「生涯現役」とも言われる時代だ。シニア層・高齢者層の働き方はどうあるべきだろうか。

政府は70歳までの雇用を企業に努力義務化する方針を検討している。早くも賛否を呼んでいる。

「人生100年時代」という言葉がバズワード化して久しい。「どうせ、一生働くのだろう」と冷めた視点の声も散見される。年金制度への不信感も募る。労働力不足に対する政府のなりふり構わない姿勢も感じられる。これは「権利」なのか「義務」なのかも問われることだろう。

ただ、高齢者の「働く権利」と、その社会的価値については肯定的に捉えたい。健康寿命が伸びている中、60歳で退職することは労働者個人にとっても社会にとっても損失である。高齢者の持つ知識、経験、人脈などは評価するべきである。

私は今から17年前、定年を迎えた技術者の活躍ビジネスの立ち上げにかかわった。トヨタ自動車とリクルートグループの合弁会社、OJTソリューションズがそうだ。トヨタのものづくり現場で約40年間活躍した管理監督者を、トレーナーとして顧客企業に送り込み、人材を育成するビジネスである。

トヨタ自動車の社員のものづくりにかける情熱、知識に圧倒された。それだけではない。私の中でのシニア像がガラガラと崩壊した。

彼らは肉体的にも精神的にも元気そのものだった。毎週3日、愛知県の三河エリアの自宅から日本全国に出張に出かける。1日中、顧客企業のプロジェクトチームのメンバーと現場を回り、意見交換をする。夜は取引先の社員や、リクルートグループからの出向者と飲み歩く。有給休暇は完全に消化する。家族との時間を大切にしている。

いかにも「老害」風のシニア像とは真逆で、彼らは大変に謙虚だった。これまでのトヨタ自動車の常識は、外の世界では通じない。トレーナーとしてのあるべき姿、プレゼンのノウハウなどを貪欲に学んでいた。彼らはICレコーダーで自分のプレゼンを録音し、あとで何度も聴き直し練習していた。

リクルートグループ出身者は、自分たちの子どもくらいの年齢だった。しかし、社内では良いコラボレーション、補完関係が生まれていた。トヨタ自動車の出身者がものづくりのプロなら、リクルートグループ出身者は企画や営業のプロである。ビジネスモデルづくり、プロジェクト運営に力を発揮する。

2000年代前半に、シニア層の活躍のベストプラクティスが生まれていた。2017年に創業15周年を迎え、記念パーティーに招かれたが、立ち上げ時に参加した人のうち数人は70代半ばになってもまだ仕事を続けている。

「あなたは高齢者ですか?」と当事者に質問したところ、ほぼ全員が「いいえ」と答える光景を見かけた。自分を高齢者だと思っていない。

シニア層・高齢者の活躍については、彼らの経験、能力をいかに生かすかという視点が求められる。また、若手、中堅社員といかに協働するかのデザインもマストである。働き続けるための職業の紹介や、訓練の受け皿も必要だ。

世代間闘争をあおっても意味がない。シニア層・高齢者と若者が手をつなぎ働くモデルをあなたの職場でどうつくるかが問われている。互いにリスペクトすることが成功の鍵だと私は信じている。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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