常見陽平のはたらく道2019.08-09

最も身近な外国人労働者
「コンビニ外国人」から考える

2019/08/19
私たちの最も身近にいる外国人労働者はコンビニで働く彼ら・彼女らだ。「コンビニ外国人」からこの問題を考えてみる。

大学のゼミで『コンビニ外国人』(芹澤健介著・新潮社)を読んだ。彼らはわれわれにとって最も身近な外国人労働者である。

そんな「コンビニ外国人」を巡って、思わず絶句する光景を目撃した。夜中のコンビニでオーナーとおぼしき高齢の男性が、外国人の男性店員を延々と叱りつける様子を見てしまったのだ。仲裁に入るちっぽけな勇気がなかったことを反省した。

電子マネー決済の不具合が原因だった。まだ日本語が不慣れな彼に厳しい言葉が浴びせられる。彼は謝罪、弁明もたどたどしい。これが火に油を注ぐ。店長はますます激高する。

いくら至らない点があるとはいえ、日本語も上手ではなく、コンビニ業務にも慣れていない外国人店員を叱りつける店長の言動はパワハラそのものだ。

ただ、このオーナーにもわずかながら同情できる点があった。そもそも、なぜこの遅い時間にオーナーが自ら店頭に立っているのだろう。きっと、人手不足が原因だ。近くにはドミナント出店で同じコンビニチェーンも出店している。もし、オーナーが異なる場合はアルバイトの奪い合いにもなるだろう。

コンビニの業務も多様化しており、現場の負荷が増えている。ここ数年でイートインコーナーも増えた。ネット通販や個人間売買サイトなどの取り扱いが増え、バックヤードも荷物でいっぱいである。

昨年、あるコンビニチェーンがビアサーバーの導入を検討しているという報道があった。都内の店舗で実験を行っている様子を、消費者が撮影しSNS投稿した。賛否を呼んだが、コンビニ店舗の負荷増大を不安視する声が上がった。

コンビニには、日本社会の問題が凝縮されている。快適、便利は「コンビニ外国人」によって担われている。個人事業主であるにもかかわらず、労働者のように扱われるオーナーも楽ではない。

気付けば日本は外国人労働者大国である。安倍首相は「移民」という言葉を絶対に使わない。しかし、厚生労働省の調査によると、昨年の10月末時点で日本には146万人の外国人労働者がいるという。しかも、与党内でも反対のあった入管法の改正が行われ、今後も日本で働く外国人労働者は増える見込みである。

もっとも、外国人労働者の拡大はさまざまな矛盾をはらみつつ、付け焼き刃的に、いや、意図的に曖昧な要素を残しているかのような様相を見せつつ、広がってきた。現状の制度も矛盾だらけである。

なぜ、外国人労働者を増やすのか。根本に立ち返って考えたい。人間は文化的、歴史的背景を持つ存在であって、単なる労働力ではない。外国人労働者も国家、地域、さらには業界別だの争奪戦が始まっている。選ばれる国、地域、企業になっているかが問われる。

もっとも、彼らを犠牲にしてはよくないが、その視点から日本の労働社会の根本的な問題があらわになるのではないかと私は予測している。便利さ、安さを追求するがゆえの問題がここでは明らかになる。

外国人労働者との共生のためにも、日本の労働社会の問題を直視したい。コンビニ外国人はその最も身近な例だ。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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