特集2019.11

日本の賃金・人事評価の仕組みはどうなっている?人事評価制度の悪用事例も労組結成の起爆剤に

2019/11/15
人事評価制度に不満を抱えている人は少なくない。労働相談にはどのような声が寄せられているのか。対応のポイントなどを聞いた。
今野 衛 連合東京

退職強要に悪用

人事評価制度に不満を抱えている人は少なくない。労働相談の現場にはどのような声が寄せられているのだろうか。労働相談を数多く受けてきた連合東京の今野衛さんによると、人事評価の問題には、(1)不明瞭な制度運用(2)賃金制度との連動性──という二つの課題があるという。

(1)は、会社が評価制度を恣意的に運用し、退職強要や賃下げなどに悪用するケース。今野さんは「低評価の社員を退職に追い込むために評価制度を恣意的に運用している会社は少なくない」と指摘する。例えば、▼退職勧奨に同意しなかった従業員を配置転換させ、厳しい降格や降給を適用する▼転職先を探すという業務に就かせ、それができなければ最低評価にする──といった事例だ。

また、パワハラ上司による恣意的な人事評価という事例もある。この上司は自分の言うことを聞かないという理由だけで部下の評価を下げた。評価制度に基づく具体性はまったくなかった。このほか、評価制度はあるが理念先行で具体性がないという事例もあった。この企業では、評価結果の説明が不明瞭で、団体交渉で根拠を求めても納得する理由が返ってこなかった。

(2)は、評価結果に対応する賃金制度がないケース。今野さんは「評価制度があっても、それにひもづく賃金制度がなければ、評価が低いというだけで賃金を下げることはできない」と説明する。これを理解していない企業が多いと今野さんは指摘する。

労使で常に議論を

こうした労働相談に、どう対応しているのか。人事評価に関する労働相談は、人事評価が労働条件の低下にどのように影響したのかがわかりづらいため、就業規則の不利益変更に比べ対応が難しく、弁護士にも取り扱いが難しい。そのため、今野さんは相談を受ける際、個人としてではなく、労働組合で交渉することを前提に引き受けるようにしている。

今野さんが受け持った案件では、多くの場合、労働組合を通じて交渉すると恣意的な評価は是正される。団体交渉では、評価基準と個人の評価結果などの開示を求め、その理由の説明を求める。事実に反することがあれば反論書を提出し、一つずつ理由を明らかにしていく。こうした作業を繰り返し、不透明な評価を少しずつ改善していく。

また、団体交渉では人事評価制度の本来の目的を共有するようにしている。それは(1)企業の経営理念・方針を従業員と共有すること(2)昇格や昇進のために期待する方向性を示し、従業員の能力・パフォーマンスを向上させること(3)人材の最適な配置を実現すること──の三つだ。こうした理念が共有できれば多くの場合、労使で制度を改善する方向で足並みを揃えることができるという。

今野さんは「大切なのは経営者と労働者が同じ方向を向くこと。それができなければ、人事評価制度はパフォーマンスを下げるものになってしまい役に立たない」と指摘する。

人事評価制度は、労使で常にあり方を議論していかないといけない問題だ。その意味でも今野さんは、「人事評価の問題は労働組合結成の起爆剤になる」と強調する。人事評価制度を個人の問題とせず、集団的労使関係の問題と捉えることが大切だ。

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