特集2019.11

日本の賃金・人事評価の仕組みはどうなっている?雇用形態間の格差是正へ
きちんと説明できるかがポイント

2019/11/15
「同一労働同一賃金」関連の法改正が行われ、来年4月から施行される。日本社会の仕組みの一つであった雇用形態間の格差是正につなげるためにどうすべきか。ポイントを聞いた。
岡田 俊宏 弁護士/
日本労働弁護団事務局長
取り組みの手順
出所:連合「同一労働同一賃金の法整備を踏まえた労働組合の取り組み〜パート・有期編〜」

「同一労働同一賃金」の概要

2018年に成立した働き方改革関連法では、雇用形態の違いによる格差の是正等を目的に労働者派遣法とパートタイム労働法が改正された。パートタイム労働法の名称がパートタイム・有期雇用労働法(パート・有期法)に変更されるとともに、有期契約労働者と無期契約労働者との間の不合理な労働条件の相違を禁止した労働契約法20条が削除され、新たにパート・有期法8条に統合され、内容が明確化された。改正法は2020年4月から施行される(中小企業は2021年4月)。

パート・有期法8条によって事業主は、短時間・有期契約労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、通常の労働者の待遇との間において、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないことになる。その際、不合理かどうかは、賃金や一時金、手当といった一つひとつの待遇ごとに、(1)業務の内容および当該業務に伴う責任の程度(2)職務の内容および配置の変更の範囲(3)その他の事情──の三つの考慮要素を踏まえ判断される。

また、同法9条では「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」について、基本給・賞与その他の待遇のそれぞれについて差別的取り扱いをしてはならないとしている。8条と異なるのは、前提条件が同じならば、すべての待遇について差別的取り扱いが禁止される点だ。

日本労働弁護団事務局長の岡田俊宏弁護士は「賃金や一時金、手当といったそれぞれの待遇の前提条件が、パート・有期契約労働者と正社員が同一であれば同一の取り扱い、違いがあれば違いに応じた取り扱いをするというのが、今回の法改正の基本的な考え方です。労働組合には、(1)前提条件が同じかどうか(2)前提条件が違うとしてもバランスの取れたものになっているのか──という二段階のチェックが求められます」と解説する。

不合理性の検討

「法改正によって新しい人事制度の導入が義務付けられたわけではありません。重要なことは、待遇差について、なぜそのようになっているのか企業が労働者にきちんと説明ができるかどうかです」と岡田弁護士は強調する。

政府は「同一労働同一賃金ガイドライン」を策定し、それぞれの待遇の相違について、「問題となる例」と「問題とならない例」を例示し、労使間論議を促している。この中では、通勤手当や時間外割増率、深夜・休日手当、福利厚生施設の利用などは通常の労働者と同一のものを支給すべきとされている。また、改正前の労働契約法20条に関する判例でも、これらの待遇差について不合理だとする判断が出ている。岡田弁護士は「通勤手当などに差を設けることには合理性がないので、すぐに改めるべき」と指摘する。

一方、労働契約法20条の裁判で不合理だと認められなかったり、判断が分かれたりしているのが、基本給や賞与、住宅手当や家族手当といった待遇だ。

岡田弁護士は、「正規とパート・有期契約労働者が同じ賃金制度であれば比較が簡単ですが、現実的には異なる職場が大半です。その場合には、なぜ制度に違いがあるのか、使用者は具体的に説明できなければなりません。説明ができないのなら、制度自体を見直すことを検討すべきです」と話す。この点、「同一労働同一賃金ガイドライン」でも、「『将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる』等の主観的又は抽象的な説明では足りない」と明示されている。

「そして、制度の違いが認められるとしても、待遇差は実態に応じたものでなければなりません。検討に当たっては、当該待遇が、どのような要素から成り立っているのかを分析する必要があります。例えば、正社員の基本給が職能給と職務給の組み合わせでできていれば、それぞれについて待遇差の不合理性を検討することになります。正社員に職能給が適用されていて、1年間で職務能力が向上し定期昇給する制度がある場合、パート・有期契約労働者も実態が同じであれば職務能力が上がった分は昇給させるべきという議論にもなり得ます。昇給がない非正規労働者が多い中で、労使交渉の対象にすべきポイントです」と指摘する。

また、賞与については「こちらも基本給と同様に、その内容の分析から始まります。賞与の計算式を分析し、それが功労報償的な要素なのか、生活給的な要素なのか、業績連動制なのかをつかみます。その上で、例えば、貢献度に応じて支払っている部分があれば、実態が同じパート・有期契約労働者にも貢献に応じた支払いをすべきですし、在籍要件によって生活給的に定額で支払っているのであれば、同じ率で支払うべきという議論になるでしょう」と解説する。

説明義務の強化

パート・有期法14条2項は、パート・有期契約労働者から求めがあったときには、事業主が待遇の相違の内容と理由を説明しなければならない義務を設けた。

岡田弁護士は、「待遇差の理由を使用者が具体的に説明できるのかがポイントです。長期雇用のインセンティブや有為な人材を確保するためという抽象的な理由では認められないというのが改正法の趣旨であり、最高裁判決からも読み取れることです。従来は抽象的な理由で待遇差が正当化されることがほとんどでしたが、その点を改めようとするのが改正法の趣旨です。労働組合としてそこに切り込んでいくことが大切です」と強調する。

「条文に情報提供義務が追加されたことに加え、労働組合で団体交渉をすれば誠実団交の観点からも企業は情報提供する必要があります。きちんと説明できなければ、パート・有期法8条違反になり得ます」

雇用形態を超えた議論を

待遇差について労使で議論する際は、具体的な検討を深めるため、通常の労働者とパート・有期契約労働者の仕事の中身を分析する作業も求められそうだ。岡田弁護士は「比較の対象となる正社員の働き方を丁寧に見ていく必要がある」と指摘する。不合理性を裏付ける資料がないと仮に訴訟に至るような場合でも争うことが難しいからだ。そのためには、正社員の協力も不可欠だ。

一方、対象となる非正規労働者の声を反映させる必要もある。不合理性を判断する際、労使交渉のプロセスは、関係する非正規雇用労働者の意見も反映させた形で公正に手続きが踏まれている場合には、不合理性を否定する考慮要素になるからだ。また、パート・有期契約労働者の職務内容などを分析し、責任の程度などを明確化し、交渉に臨むという戦略も考えられる。雇用形態を超えて職場の声を集めることが重要になると言える。

「改正法が期待しているのは、労使がコミュニケーションを図って制度をつくっていくこと。お互いが知恵を出し合って公正な仕組みに近づけていく必要があります」と岡田弁護士は強調する。これまでの「仕組み」を見直して、より良い「仕組み」に見直すためには、多くの人が議論に参加することが欠かせない。

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