特集2019.12

労働組合による経営分析経営分析と労使交渉
労働組合の力を高めるために

2019/12/12
労使交渉の中で経営分析を実践していくためのポイントは何か? 中小企業の労使交渉の最前線で活動するDe-self労組の中野委員長に聞いた。
中野 匡 情報労連De-self
労働組合執行委員長

現場力が重要

上場企業ならIR情報から企業の財務状況などを把握できます。ただし、持株会社の場合、傘下の事業会社の財務状況が公開されず、その一部しか把握できないことがあります。

また、会社が、決算情報などをインサイダー情報として労働組合に明かそうとしないケースも近年増えています。合併や民事再生法適用の話をIR発表の前日や当日に労働組合に伝える事例もあります。

一方、非上場企業の場合でも労使関係が良好であれば、大まかであっても数字は出てきます。それをベースに労使協議をしています。

問題は、情報提供を行わない会社です。こうした企業でも団体交渉すれば、数字をまったく出さないわけではありません。しかし、数字の根拠が不明確でそのまま受け入れられない場合が多々あります。例えば、「今期は減益だった」と言っても、なぜ減益だったのか、例えば、そこに役員の退職金が含まれていなかったか。こうしたことをチェックしなければいけません。

会社が情報提供をしない場合、現場の実感が頼りです。売り上げは伸びているのに経常利益に反映されない。それはなぜなのか。こうした疑問を突き付けるためにも、労働組合が現場感覚をしっかり把握しておくことが重要です。

現場の実感が把握できれば、労働条件の改善にもつながります。労働組合が現場と事業計画のギャップを明らかにすることで経営陣の対応を引き出せます。

労働組合法には誠実交渉義務があり、企業は労働組合から情報提供を求められれば応える義務があります。しかし具体的にどこまで応えるべきかは法律には定められていません。情報提供の強度を決めるのは最終的には労使の信頼関係と力関係です。労働組合が仲間を増やし、現場の実態を把握し、交渉力を高めることが重要です。

怖がらず質問すること

労使交渉では、会社側の言うことに簡単に納得しないことです。例えば、「今期は売り上げが悪かったから」と言われても、なぜ悪かったのか、どこに原因があるのかを探らなければいけません。相手が球を投げてきたら空振りでもいいから必ずバットを振ること。労使は信頼関係が大切です。でも、お互いの立場が異なることを理解し、怖がらず質問することが大切です。

労使間の話し合いがこう着状態になってしまったら、労働委員会の活用も一つの方法です。救済申し立てではなく、あっせん申請を活用するのもいいでしょう。あっせんには法的拘束力はありませんが、第三者として公的機関が間に入ってくれるだけで交渉が進む場合があります(一方、申請によって会社が態度を硬化させる場合もあり、見極めが必要です)。

労働組合活動は消防団のようなものだと思います。消防団は火災が起きたら現場にすぐに駆け付けて消火活動を行いますが、訓練をしていない人たちが集まっても何もできません。迅速・的確に消化するには、日頃の訓練が大切です。労働組合もこれと同じです。労働組合があれば会社で何か問題が起きたときに、すぐに対応できるというのは幻想です。労使交渉を普段から積み重ねているからこそ、問題発生の際に迅速・的確に対応できます。

経営分析も日常の活動の上に成り立つものです。まずは現場の実態をしっかり把握するために、仲間づくりに取り組むことが重要です。

第52回全統一定期大会(7月29日)この大会からDe-self労働組合に名称を変更
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