労働組合による経営分析「ブラック企業」の見分け方
客観的なデータの重視を
日本労働弁護団常任幹事
客観的データで見ること
「ブラック企業」という言葉ですが、今回は、労使関係で違法な行為を繰り返している会社という意味で使います。その上で、「ブラック企業」の見分け方として、私が学生の皆さんによくお話しするのは、主観的な感じ方などではなく、「客観」的なものを重視して判断しようということです。
その第一の指標は、労働組合があるかないか。労働組合の皆さんは、自分たちの存在によって、労働条件が維持・向上できていると学生にも堂々とアピールできるよう、広報も含め、意識して活動してほしいと思います。
次に、客観的な「データ」を重視することです。就職・転職活動は、知り合いのつてなどで行われることがいまだ多いです。企業規模が大きいから安心とか、CMや広告のイメージが良いからという主観的な印象で就職先を決めてしまうこともあります。ただ、イメージは良くても実際の労働環境が悪いことは往々にしてあります。そのため、具体的な数字を用いて見極めることがやはり大切です。ワーク・ライフ・バランスを重視するのであれば、年次有給休暇の取得率や育児休業の取得率、女性の管理職比率などの指標を同業他社と比較すべきでしょう。
企業のリクルーターは、「厳しいこともあるが成長できる」とか「やりがいを感じられる」など主観的なイメージをアピールしてくるかもしれません。ここでもやはり客観的な数字を引き出すべきでしょう。
かつては採用面接などの際に労働条件の質問をするのはタブー視されていましたが、今は流れも変わっています。質問する際は、具体的な労働条件に関するデータを質問するようにしてください。
経営指標だけではわからない
「ブラック企業」かどうかは、経営指標だけではわかりません。利益を上げ続ける一方、働く人たちを酷使している「ブラック企業」の事例は枚挙にいとまがないからです。労働条件に関する一つの指標になるのは、離職率や定着率、人員構成などです。人材が流動する会社の労働条件がすべて厳しいわけではありませんが、離職率の高い企業は長く勤務できないかもしれないと慎重に見る必要があるでしょう。
また、多くの「ブラック企業」では、長時間労働とハラスメント、不払い残業が同時に起きています。残業代を払わないから、コストをかけずに働かせることができます。「固定残業代」制度がその横行に拍車を掛けています。一例として「固定残業代」制度を採用しているのかどうかなどを見極める必要があります。
情報開示の促進を
情報開示をどれほどしているかも比較の判断材料になります。人手不足が続く中で、企業は労働条件などの情報を積極的に開示しなければ優秀な人材を集められなくなっています。労働条件に関する情報を積極的に開示するよう、労働組合も企業に促していくべきでしょう。
企業は、投資対象という立場からも情報開示を進める必要があります。「ESG投資」に注目が集まる中で、労働環境の改善や女性の活躍促進に取り組んでいるかが重要な指標の一つになっています。企業の成長という観点からも労働環境に関する情報開示が重要になっています。
企業の中で働く労働者にとっても、労働環境などの問題で企業が社会的批判を浴びれば、何らかの影響が及びます。健全な労使関係の構築は労使双方の利益にかなうということを意識し、企業に働き掛けてほしいと思います。