特集2019.12

労働組合による経営分析企業の求人情報をチェック
労働組合が主導してフォーマットの整備を

2019/12/12
求人情報や職場情報は、企業の労働環境を映し出す情報だ。求人情報をどうチェックすべきか。労働組合に期待される役割とは?
上西 充子 法政大学教授

求人情報のごまかし

求職者は求人情報にごまかされることがあります。例えば、初任給25万円と書いてあっても、そこに固定残業代が含まれていて、実際の基本給は18万円しかないような場合。企業は求人情報を出す際、自社にとって都合の悪いことを隠し、都合の良い部分を出そうとすることがあります。弱い立場に置かれている求職者がこれを指摘し、是正させることは困難です。だからこそ、企業の中にいる労働者や労働組合が、うそやごまかしのない労働条件の開示を進めてほしいと思います。自社の労働条件をきちんと開示させることが、まともな企業としての競争力を高めることだと会社を説得してほしいと思います。

実際のごまかしの事例として多いのが初任給の額です。初任給の中に交通費や住宅手当、固定残業代など、正味の基本給ではないものが含まれている場合があります。手当を除いた基本給を募集段階で明示させる必要があります。

固定残業代に関しては、2017年の職業安定法の改正で、固定残業制を適用する場合には一定の記載を求める規定が指針に設けられました。しかし、強制力という点では課題が残ります。固定残業代の有無は、あるかないかの二択で明示させるべきです。

また、新卒採用に関しては、内定段階で実際の労働条件を明示した書面を手渡すようにすべきです。少なくとも、この条件は下回らないという内容を内定者に伝えるべきでしょう。勤務地に関しても、いつまでには決まるということを記載すべきです。

職場情報のチェック

近年の新卒採用は、スケジュールが形骸化しており、募集開始前のインターンシップから就職活動が始まります。学生は募集要項で労働条件を確認できないまま、志望企業の決定を迫られる場合もあります。こうしたケースでは『就職四季報』などで労働条件をあらかじめチェックすることが重要です。

『就職四季報』の2020年版を見てみましょう。詳細情報の掲載がある企業1286社のうち初任給の内訳を掲載している企業は974社。内訳を回答していない企業もあることがわかります。

初任給の内訳を記載した企業を具体的に見てみましょう。A社は大卒初任給20万7500円、内訳は全額が基本給です。一方、B社は大卒初任給20万5000円、内訳は基本給17万8500円と固定残業代2万6500円です。見た目を他社とそろえるために固定残業代を含んだ金額を初任給としていることがわかります。また、この固定残業代が何時間分なのかの記載はありません。とはいえ、こうした企業はある意味、正直に記載していると言えます。内訳を回答していない企業の場合は、こうした固定残業代が含まれているかすらわかりません。見た目の金額は同じように見えても、その内実はバラバラだということに求職者もアンテナを立てないといけません。

また、『就職四季報』などで情報を見る際は、情報開示の項目の多寡もチェックするとよいでしょう。「ノーアンサー」の項目が多い企業は都合の悪いことを隠している可能性があります。

『就職四季報』のほかに、厚生労働省の「職場情報総合サイト」「女性の活躍推進企業データベース」などが活用できます。同業他社との比較なども可能です。

こうした職場情報における指標の見方としては、労働組合の有無や、勤続年数や離職率、女性管理職比率、有給休暇取得率などをチェックするとよいでしょう。例えば、新卒採用者3年以内の離職率が高いようなら、人材育成がきちんとできているか疑問が湧きます。

「女性の活躍推進企業データベース」では、一般職と総合職の時間外労働の違いがわかります。部署ごとやプロジェクトごとの違いまで知ることは難しいですが、労働組合がこうした情報の開示を会社に促すこともできるでしょう。

労働組合がなぜ取り組むか

求職者にきちんとした情報を伝えるために、労働組合が主導して求人情報のフォーマットの整備を進めてほしいと思います。例えば、固定残業代や裁量労働制の有無を必ず明記させるほかにも、2週間以上の男性育児休業の取得率といった求職者が知りたい独自の指標をつくって開示する──。産業別労働組合が主導してこうした運動を展開してほしいです。

職場環境の内実は劣悪なのに、不誠実な求人情報で求職者をだます企業に人材が取られてしまう現状があります。まともな企業は積極的に公正な労働条件を開示することで、企業の競争力を高めていくべきです。求職者は立場上、求人者に比べて弱いため、企業の中にいる労働者や労働組合が会社に適切な情報開示を求めてほしいと思います。こうした取り組みによって労働市場を健全化させることは、すべての働く人たちの労働条件を底上げすることにつながります。自社の求人情報、職場情報が実態と合っているかチェックしたり、より多くの項目を開示したりするように促すことを期待しています。

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