常見陽平のはたらく道2020.06

フリーランスの困窮は
自己責任なのか

2020/06/12
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、フリーランスの働き方に改めて注目が集まった。このままでいいのか?

学生たちと「自由な働き方の功罪」というテーマでオンライン勉強会を開いた。単位にならないのだが10数名が参加した。

「自由」という言葉に学生は引かれたようだった。事例としてウーバーイーツを取り上げた。多くの学生がこの働き方に興味を持っていた。しかし、そのサービスの実態、ウーバーイーツユニオンの活動などを伝えると学生は一気に疑問を持つようになった。「フリーランスで働く人が新型コロナウイルスショックで困窮するのは“自己責任”か?」という質問に、「はい」と答えた学生はゼロだった。学生たちは自由なイメージの裏にある、不自由、不安定な現実に驚いていた。

新型コロナウイルスのフリーランスへの影響が報じられている。案件のキャンセルなどが相次ぎ、売り上げが激減した。個人事業主に対する持続化給付金の支給なども行われたが、支給要件をより緩和するべきではないかという意見もあった。

何年かに一度「自由な働き方」の中でも「雇われない働き方」のブームが起こる。思えば、約10年前には「時間、場所、所属」の自由を手に入れて働く「ノマド」がはやった。ここ数年も「自由」で「柔軟」な働き方についての議論が盛んとなり、フリーランスに注目が集まっていた。会社員の副業・複業や、高齢者の退職後の活躍についても、フリーランスは選択肢となる。

いかにも「自由な働き方」のように見える「雇われない働き方」は、確かに組織に縛られず自分の力を生かし会社員時代以上に稼ぎ、自由な生き方をまっとうする人もいる一方で、育児・介護との両立のために、消極的に選択せざるを得ない人もいる。「自分のスキルで稼ぐ」という世間のイメージとは逆の、スキルが低く正社員になれないがゆえに、フリーランスで自分のできる範囲の仕事で決して高いとは言えない収入を得ている人もいる。

フリーランスは企業にとって便利な存在となり得る。社内には専門家が育ちにくい領域を担当してもらうことができる上、労働力不足を解消することができる。費用も案件ベースである。長時間労働の規制もない。本来であれば、独立した存在として仕事を依頼するべきではあるのだが、正社員同様の指揮命令系統の下で働いている例も散見される。

フリーランスを拡大しているのは、正社員という仕組みであるという見方もできなくはない。自分のスキルを生かして、自由に働きたい層にとっては、人事権を勤務先に握られ必ずしも自分がやりたい職種を継続できない可能性もあるし、柔軟に働くことができないし、収入もその限界が見えてしまう。

現状のフリーランスという働き方にはリスクがあるということは、当事者たちは認識するべきではある。ただ、新型コロナウイルスショックなど急激な社会の変化があったときに簡単に「自己責任だ」で切り捨てることは愚かであることは明らかだろう。フリーランスを生み出したのは社会そのものではなかったか。自己責任ではなく、社会責任だ。

新型コロナウイルスショックに関連してだけではなく、フリーランスとどう向き合うかを考えなくてはならない。自由と安定、さらには尊厳をどうするか議論を続けたい。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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