「コロナ雇用危機」を乗り越えるために労働組合があるから会社と交渉できる
コロナ下での加盟組合の活動
休業手当100%で合意
4月、各地の携帯電話販売店は緊急事態宣言の発出で店頭業務の縮小や時短営業を余儀なくされた。東海・関東地区などで携帯電話販売代理店事業を展開する株式会社エスケーアイの携帯電話販売店もそのうちの一つ。緊急事態宣言後、店頭業務の縮小や時短営業を実施した。
そこで休業手当の扱いが課題になった。エスケーアイ労働組合の山田真希委員長は、当初は6割の休業手当をもらえれば、それで十分と考えていた。だがその後、弁護士の講演を受講して、100%の休業手当を要求できることを知った。ちょうどその時、組合員からは「給料が減ると生活が苦しくなる」という声が多く寄せられた。その声を聞いて、100%休業手当を要求することを決めた。「雇用調整助成金を使えば、会社にとっても、働く側にとってもメリットがある。自信を持って要求することができた」と振り返る。
団体交渉では、現場の思いに寄り添ってほしいと強く訴え、休業手当の具体的な金額などを自分たちで計算しながら、さまざまな情報を集めて会社と交渉した。会社は組合の要求を受け止め、100%の休業手当を支給する回答書を組合に提示した。
「会社は労働組合の声を受け止めてくれた。無理だと思っていたことが、みんなの声を集めることで実現できて、シンプルにうれしかった」と山田委員長は振り返る。労働組合の結成から2年。会社の理解もあり、今回、目に見える成果を獲得できたことで自信にもつながった。職場の仲間からは感謝の声が多く届いた。労働組合は職場をより良くするものだと経験として刻まれた。
山田委員長は、かつては自分が出世すれば会社の環境を変えられると思っていた。しかし、労働組合を結成した今では、「一人の力と、みんなの声を集めて伝えるのではまったく違う」と感じている。
「会社も経営状況が大変厳しい中、それでも私たちの声を受け止めてくれたことで、職場の環境も変わりつつある。労働組合をつくって本当に良かった。この経験を生かしていきたい」
夏季一時金の支給を勝ち取る
新型コロナウイルスの影響は印刷業の加盟組合にも及んでいる。山口県下関市にある株式会社三和印刷社もそうだ。
同社では、従業員の休業は3月から始まった。学校の一斉休校からパート従業員が休業しはじめ、4月からフルタイムの従業員も休業しはじめた。会社全体の休業はなく、部署ごとにシフトを組みながら休業の日数を決めている。
同社では100%の休業手当が支払われている。三和印刷社ユニオン(組合員数7人)の合田智子委員長は「100%の休業手当は会社から提示してくれた」と振り返る。労働組合からは適用範囲の特例があることを会社に伝えるだけで済んだ。
会社とは夏季一時金の交渉をした。経営を取り巻く環境が厳しさを増す中で、一時金の支給は難しいという雰囲気もあった。だが、団体交渉したことで一時金が支給されることになった。
「労働組合がなかったらボーナスも出なかったかもしれない」
合田委員長は、休業手当が100%支給されたのも、夏季一時金が出ることになったのも、労働組合の存在が大きいと感じている。労働組合を結成したことで労使関係に良い意味での緊張感が生まれ、それが一連の結果につながったと感じている。
「労働組合がなければ、一人ひとりが困った状態のままで我慢するしかない。でも、労働組合があるとその悩みを共有して会社に伝えることができる」と合田委員長。労使交渉の際には自分一人の意見にしないよう、組合員の声を聞くことを心掛けている。
「労働組合が職場にあるといろいろなことが改善できる。労働組合はつくったほうがいい」。迷いなくそう答える。
コロナ禍の中、労働組合は各地でその機能を発揮している。