特集2020.10

「コロナ雇用危機」を乗り越えるために企業横断的な仕組みで雇用維持へ
UAゼンセンの「就労マッチング支援」

2020/10/14
流通・サービス業など幅広い産業を組織するUAゼンセン。「コロナ危機」では、仕事が減少した企業の組合員を、人手不足の企業にマッチングする施策を展開した。企業横断的な雇用維持策について、UAゼンセン総合サービス部門事務局長の原田光康さんに聞いた。

約120人が制度を利用

UAゼンセンは、4月から6月にかけて、外食産業などで休業などをした企業の組合員を、スーパーなどの人手不足の企業にマッチングする就労支援制度を展開した。

「コロナ危機」では緊急事態宣言に伴い、外食産業やレジャー産業は、休業や営業時間の短縮に追い込まれた。一方、スーパーやドラッグストアなどの小売産業は外出自粛の影響で来客数が増え、繁忙化した。

「外食、レジャー産業では休業や時短営業で働けなくなる組合員が増えた一方で、スーパーなどで働く組合員は逆に忙しくなりました。サービス産業はもともと人手不足。UAゼンセンの中でものすごい需給ギャップが生じました。そうした中で、働く場所を失った人たちの受け皿として、人手が足りない小売業にマッチングして仕事を確保できないかと考えたのが入り口です」とUAゼンセン総合サービス部門事務局長の原田光康さんは話す。

休業要請に対して雇用調整助成金を活用して休業手当を支払う企業がある一方、財務基盤が弱い企業では雇用危機に直面した。そうした中で、パート・アルバイトで働く人の雇用をつなぐために始めたのが、「就労マッチング支援」の取り組みだった。

具体的には、外食やレジャー産業を統括する総合サービス部門が就労を希望する人を地域ごとに募り、それをスーパーなどを統括する流通部門につないで、対置する企業に就労を要請するというもの。4月後半〜5月初旬、5月下旬〜6月上旬の2回に分けて就労希望者を募集。結果的に約120人がマッチング制度を利用して就労することになった。

就労の形態は出向もしくは副業。副業の場合、マッチング先の会社と新たに労働契約を締結する。

地域で雇用を維持する

もともと、スーパーやファミリーレストラン、居酒屋などのサービス・小売業は、店舗の入れ替わりが激しい。競争力を失った店舗が閉鎖され、別の場所に店舗をオープンさせることは少なくなかった。

このような場合、正社員は原則として異動によって雇用を確保してきた一方、地域密着で働くパート・アルバイトの労働者は、個別事案に応じて、近隣の事業所への異動を打診したり、地域のUAゼンセンに対置する別企業の求人を探してマッチングしたりするなどの取り組みをしてきた。今回のようにパート・アルバイトを対象にして就労マッチングを制度化したのは初めてだという。

「UAゼンセンの組合員のうちパート・アルバイトは6割以上。この20年間で一気に増えました。これまでは正社員の雇用を、転居を伴う異動で確保してきましたが、今回、産業別労働組合として、パート・アルバイトの働き方に対応した雇用維持策を行う必要性を痛感しました。今回の就労マッチングでは、正社員のような異動が難しいパート・アルバイトの組合員でも、地域の中で働き続けることができます。産業別労働組合の取り組みとして意義のあるものだったと感じています」と原田さんは話す。

この取り組みは、地域の中に労働組合が組織されるほど、マッチングの選択肢が増えるため、UAゼンセンのように、地域の中で数多くの労働組合を組織しているほど実効性が高まる。原田さんは「産業別労働組合だけではなく、地方連合会と連携すればマッチングの選択肢は広げられるはず」と話す。

今回は緊急措置的な対応だったが、UAゼンセン総合サービス部門では今後、ITツールなどを活用しながら、恒常的な仕組みにすることを検討しているという。

個別企業が雇用を維持できなければ、地域や社会で雇用を支える必要が出てくる。産業別労働組合による企業横断的な雇用維持の取り組みは今後ますます重要になりそうだ。

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