特集2020.10

「コロナ雇用危機」を乗り越えるために約80%の組合が休業手当9割以上
雇用調整助成金を積極活用した「JAM」

2020/10/14
中小企業の労働組合は「コロナ・ショック」にどう立ち向かっているのだろうか。中小・製造業を中心に35万人の組合員で組織するJAMの川野副書記長に話を聞いた。
川野 英樹 ものづくり産業労働組合
JAM副書記長

「コロナ」が事業に与えた影響

JAMでは結成以来、雇用に関する調査を行っています。調査では、新型コロナウイルス感染拡大に伴う影響は3月から出始め、4月から一気に顕在化しました。4月に一時帰休・操業調整に直面した加盟組合は677単組。JAMの交渉単位数は1500強なので、3分の1以上が一時帰休などの対応を迫られたことになります。

8月時点では561単組が一時帰休などの対応に迫られています。ピークより減ったとはいえ、高止まりしています。リーマン・ショックのときは458件(2009年1月)が最多だったので、今回は、それ以上の件数が長期にわたって続いていると言えます。

会社からの新規提案は、今のところ一時帰休・操業調整がほとんどで、早期退職、労働条件の引き下げなどは少数にとどまっています。しかし、今後さらに厳しくなると想定しています。上半期の操業調整の影響は、年末や年度末の決算状況に多大な影響を及ぼします。秋から年末にかけては、年末一時金の交渉がありますが、厳しい回答状況が予測されます。年間協定を結んでいる単組でも、再交渉があるかもしれません。

さらには3月末に向けて決算状況が厳しければ、銀行から何らかの合理化策を求められる可能性もあります。そうなれば、希望退職や整理解雇、倒産などが起きてもおかしくありません。非常に強い危機感を持っています。

雇用調整助成金の活用

JAMでは雇用維持のために、雇用調整助成金を活用して、休業手当100%をめざす取り組みを展開してきました。

その結果、約98%の単組が、8割以上の休業手当を確保しました(8月時点)。このうち10割の休業補償は55.4%で半数以上を占めます。9割の単組も24.4%で休業補償の割合が9割以上の単組で約80%になります。JAMではリーマン・ショックの際も雇用調整助成金の活用を促してきました。労使の取り組みが定着しつつあると捉えています。雇用調整助成金は、企業からの申請数が落ち着くまで、特例を延長すべきです。

このほか、雇用を守る取り組みとして、雇用安定協約の締結を推進してきました。会社は雇用維持に最大限努力する一方、労働組合は経営環境を理解し協力する。雇用にかかわることは事前協議で話し合う。こうした内容を協約として締結します。

労使協議の前提として、経営状況の情報開示も求めてきました。さらには集団的労使関係の理解を広げるために、全国105の地域協議会で、地域の労使が情報を共有する「労使会議」を年数回開催しています。労使が相互理解のために粘り強く話し合う環境づくりが、今回の「コロナ危機」の中にも生きていると思います。必要なのは、労使が互いの立場を理解した上で、双方が課題認識を共有して話し合う場を積み重ねていくことです。

労働者供給事業の展開

JAMは政策スローガンとして「価値を認め合う社会へ 製品と労働に適正な評価を」を掲げています。中小企業にとって労働条件を向上させるためには、コストを価格に適正に反映し、それにより適正な利益を得ることが必要です。今後、「コロナ」の影響が大きくなる中で、中小企業もさまざまな対策を求められます。そこで生じたコストを価格に適正に転嫁できる環境も求められます。

また、労働組合として労働者供給事業の展開も検討しています。今後、雇用の流動性が高まった際にJAMが組合員を引き受けて、JAMに対置する企業にコーディネートし、雇用を守っていく。将来的には産別が労働者のスキル評価などを行い、転職しても労働条件が下がらないようにしたり、産別のミニマム基準を設定する展望も抱いています。技能実習生や留学生の就労環境の改善にも活用したいと考えています。

特集 2020.10「コロナ雇用危機」を乗り越えるために
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