「コロナ雇用危機」を乗り越えるために「コロナ」以前から厳しいシングルマザー世帯の生活
社会保障と雇用慣行の見直しを
月収が1万2320円減少
シングルマザー世帯は、「コロナ」以前からぎりぎりの生活を送ってきました。「コロナ」がなくても、生活はずっと苦しかったのです。「コロナ」は、それにさらに追い打ちをかけました。
緊急事態宣言の解除後、経済環境が元に戻るとの見方もありましたが、シングルマザーはより厳しい状況に置かれることが想定できました。そうした実態を明らかにするためにも「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」と研究者等の調査プロジェクトでは、7月にシングルマザーの就労・生活調査を行い、約1800人から有効回答を得ました。
調査では、特に非正規雇用で働く人に大きな影響があったことが明らかになりました。2〜5月の平均就労収入は、正社員は4235円減だった一方、非正規雇用は1万2320円も減少していました。
ひとり親で子育てなどのケアを担うことの影響も明らかになりました。自分が感染した場合の子どもへの影響を恐れて、仕事を自主的に休職・退職した人が3割超もいました。
休校に伴い学校給食がなくなった影響も大きかったです。食費が1カ月で1万円以上増加した世帯が全体の約8割に上りました。
シングルマザー世帯は収入が少し減るだけでも家計のやりくりが難しくなるのに、これだけの収入減があり、負担が増えるとかなり厳しくなります。4月以降、一気に困窮化が深刻化しました。私たちのもとには「食べるものがない」「親は1日1食になった」という切実な相談が届いています。
働いているのに貧困
日本のシングルマザーの就業率は約8割で、世界最高レベルです。にもかかわらず、シングルマザー世帯の相対的貧困率は50%を超えています。働いているにもかかわらず生活が厳しいのは、社会保障が弱いこと、雇用格差が激しいことに理由があります。
非正規雇用は雇用の調整弁として使われ、これまでも不安定な雇用にさらされてきました。今回も電話一本で待機や解雇を命じられたという相談がたくさんありました。なぜ、非正規雇用が雇用の調整弁として使われてきたかというと、「主婦だからいいでしょう」という発想が背景にあるからです。ひとり親が正社員として働きながら、仕事と子育てを両立することは、日本ではとても難しいのです。
政府から支給された一律10万円の給付も、生活困窮の中で、すぐになくなってしまいます。子育て世帯やひとり親世帯への臨時の給付金も、さまざまな生活費のためにすぐに消えてしまいます。私たちは、ひとり親世帯への臨時特別給付金の再支給を要請しています。将来的には恒常的な仕組みにすべきだと考えています。
離婚というリスクへの対応
シングルマザーの状況を改善するためには、現金・現物両方の社会保障を増やすことが必要です。
また、働く現場では、熟練した働き手が職場にいることのメリットをもっと認識してほしいと思います。40代になれば子どもも親の手から一定程度離れるので、親も柔軟に働けるようになります。責任ある仕事を任されながら、意欲を持って働いているシングルマザーはたくさんいます。そうした人を登用するなど、再評価してほしいと思います。
離婚は社会的に見ても今や珍しいことではありません。しかし、その後のひとり親世帯をサポートする仕組みはなく、自己責任です。社会の偏見も残っています。シングルマザーの厳しい実態が流布されるほど、結婚生活を我慢して続けざるを得ない人もいます。
相性の悪い人と結婚してしまうリスクは誰にでもあります。たとえ結婚相手と残念ながらうまくいかなかったとしてもやり直しがしやすい社会の方が、DVも起こりにくく暮らしやすい社会になるはず。私たちは養育費の不払い解消に向けた活動を展開しています。企業には、離婚した人が養育費をきちんと支払うように導く仕組みを検討してほしいと思います。