特集2021.03

社会貢献活動・ボランティアの10年支援活動で生まれたつながりを生かし
「福祉を起点とした地域おこし」へ

2021/03/15
東日本大震災から10年。復興に向けた現在の課題は何か。復旧ボランティア活動で生まれたつながりは、今にどう生きているのか。生活者支援に取り組んできた岩手県社会福祉協議会に聞いた。
斉藤 穣 岩手県社会福祉協議会地域福祉企画部
部長兼ボランティア・市民活動センター所長

復旧期から復興期へ

東日本大震災から2020年3月まで、岩手県内市町村の社会福祉協議会の災害ボランティアセンターを通じて、56万8000人もの人がボランティアに参加してくれました。

社会福祉協議会では、東日本大震災の前から、大規模災害が起きた場合には、社会福祉協議会がボランティアセンターを開設して、生活復旧の役割を担うという認識を持っていました。

ただし、その視点は、災害発生直後から家財の運び出しや泥出しなどの復旧期までの活動が中心でした。実際、災害ボランティアセンターの活動では、災害発生後の復旧期まではある程度対応できても、その後の生活の復興期となると活動の内容も変わってきます。復興期では、被災者に寄り添って、ニーズを的確に把握し、ケースに応じて関係機関への支援につなげるタイプの支援が必要になります。

現在、県内の社会福祉協議会には約105人の生活支援相談員が配置されていて、被災した人を中心に訪問活動を行い、話を聞いて、必要な支援につなげています。また、住民同士の支え合いの仕組みづくりにも社会福祉協議会が携わっています。このように東日本大震災後は、社会福祉協議会が復興期を意識した活動に取り組めるようになりました。

地域を支える仕組みづくり

復興期の取り組みは、しばらく続きます。震災から10年が経過して、自宅を再建した人もいれば、災害公営住宅に移り住んだ人もいます。自宅を再建した人でも、家族環境の変化で結果的に広い家に一人で住んでいる人もいますし、災害公営住宅で横のつながりがなく孤立している人もいます。

そうした中、社協では、生活支援相談員が被災者を中心に住民のもとを訪問し、困りごとなどを個別に聞き取る「アウトリーチ」の活動や、住民同士でサロンを運営するなど、住民相互の支え合いを進めるためのボランティア育成などの活動を展開しています。

岩手県沿岸部では、「地域支援拠点」を6カ所ほど設置しています。そこに生活支援相談員が常駐して住民からの相談を受け付けたり、住民の交流イベントを企画したりしています。

ただし、生活支援相談員の事業は、国の復興支援事業に基づく期限付きの事業です。東日本大震災復興基本法第3条に基づく「復興・創生期間」は今年3月末に期限を迎えますが、岩手県は第2期復興創生期間として2026年3月末までの5年間延長されることになりました。この期間の間に、住民同士がつながる仕組みを整えなければいけないと強く感じています。

現在、社協では、住民同士の関係性を地図上で結び付ける「支え合いマップ」の作成に取り組んでいます。住民の関係性を「見える化」することで住民を取り巻く環境や、支援方法を考えるきっかけになります。

また、各市町村の社協では、被災した人を対象にしたサロンを開いていますが、これを住民だけで開催できるよう支援しています。

被災した沿岸部の地域は、高齢化・人口減少が震災前から進んでいました。震災から10年が経過し、その傾向に拍車が掛かっています。

地域を支える仕組みづくりをしようとしても、そこに参加する人材をどう育成するかが課題になっています。働く世代の参加を促したり、高齢でも活動できる方の力を借りたり、支援する人を育成する取り組みが求められます。

住民や市民団体とのつながり

東日本大震災後の活動を通じて、さまざまなつながりが生まれました。住民の皆さんからは、災害ボランティアセンターや生活福祉資金、その後の生活支援などを通じて、社協の活動を知ってもらえるようになり、最近では、親しみを込めて「社協さん」と呼ばれることも増えました。私たちとしても、住民の生活を長期間にわたって支えるのが、社協の使命だと感じるようになりました。住民の皆さん同士のつながりという意味でも、ともに震災を経験した者同士として、社会貢献や地域づくりに力を発揮したいと考える人はいます。

また、市民団体とのつながりという点でも、支援を申し出てもらった団体には可能な限り活動に参加してもらい、各団体の強みや経験を生かしてもらうようにしました。現在でも、そのつながりを生かした取り組みを行っています。

さらには、震災後にボランティアに参加してくれた人のうち多くの人が、震災から10年が経過した今でも、岩手県を訪れてくれています。近年の台風や豪雨災害の際にも、ボランティアの方が駆けつけてくれました。一方で、支援の恩返しとして、被災地の住民が熊本地震や西日本豪雨などの災害ボランティアに参加する取り組みも行われています。

復興期の支援では、社会福祉協議会の単体ではなく、さまざまな関係機関や市民団体・NPOなどと連携・協働して活動することが大切です。私たちもそうしたことを意識して活動するようにしています。

福祉を起点とした地域おこし

東日本大震災から10年が経過する中で、道路や公共施設、災害公営住宅などのインフラ整備は進みました。一方で、高齢化の進展や居住環境・家族関係の変化をはじめとした人とのつながりの再構築、孤立や生活困窮、地域の担い手不足など、課題は複雑かつ多様化しています。

こうした中で、被災した人の生活を支えるためには、「点」ではなく、「面」でのサポートが必要です。東日本大震災を契機に、県内外の市民団体や企業などとの間で生まれたつながりを生かし、私たちとしては、県内の状況や必要とされるニーズを発信し続け、その活動に多くの人に参加してもらいたいと考えています。

そうした考えに基づき、現在検討しているのが、「福祉を起点とした地域おこし」の実践です。地域における生活支援活動を広く外部に発信することで、その活動に賛同してくれる人を増やし、その街に行ってみたいと思ってもらえるようにする取り組みです。生活支援の取り組みが、魅力ある街づくりにつながるよう活動していきたいと考えています。

労働組合との協働

労働組合は、その組織力の高さから、一度に多くの人が活動に参加してくれますし、継続的に活動を支えてくれます。これまでにも、さまざまな場面でボランティア活動に参加してもらいましたし、今も各地の活動に協力してもらっています。とても心強く感じています。

労働組合と社協は、住民の「底上げ」という意識を共有できます。これからもともに活動を進めることができればと考えています。

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