特集2021.03

社会貢献活動・ボランティアの10年問われる企業倫理
差別にあらがう姿勢を明確に

2021/03/15
企業の広告が、差別や人権などの観点から批判される事例は少なくない。企業はなぜそうした広告をつくってしまうのか。作り手の側の働く人たちは何を学ぶべきか。企業と社会の向き合い方を考える。
ケイン 樹里安 大阪市立大学
都市文化研究センター研究員

「炎上」の背景

「私作る人、僕食べる人」という食品のCMが、性別役割分業を固定化するものとして批判を受けたのは1975年です。配慮を欠いた企業広告が批判される事例は、このCMのように以前からありました。

近年の傾向としてよく指摘されるのは、技術の変化です。消費者がSNSなどを通じて自分の意見を発信しやすくなったり、インターネットを通じて他の消費者などの反応が見えるようになったりしたことで、問題が共有されやすくなり、「炎上」につながりやすくなったといわれています。

批判される内容は、ジェンダー表象に関することが相変わらず多いです。価値規範がアップデートされないままCMをつくって批判を浴びています。大半のケースは、担当者の不勉強が原因ではないかと考えています。

とはいえ、最近では、アパレル企業がプラスサイズモデルのタレントを採用したり、家事や育児の描き方も工夫したり、これまでと異なるメッセージを打ち出すような事例が見られるようになっています。外資系企業が先行しているので、国内企業も続いてほしいと思います。

差別にあらがわない日本企業

昨年、外資系スポーツブランドが、日本におけるいじめや人種差別の問題をCMで取り上げ、話題になりました。CMの内容を心強く思う一方、一抹の寂しさも感じました。人種差別にあらがう姿勢を明確に示す企業がもっと一般的になっていれば、そのCMがここまで注目されることはなかったはずだからです。

裏を返すとそれは、日本企業が人種差別にあらがうスタンスをこれまで明確にしてこなかったことの表れです。例えば、テニスプレーヤーの大坂なおみさんが人種差別に抗議した際、彼女のスポンサーである日本企業は、彼女を起用しながらも「脱政治化」した広告を出し、批判を受けました。

大坂さんは、テニスで輝かしい成績を残しながら、同時にアンチレイシズムを体現するアスリートです。そうした人物のスポンサーであるにもかかわらず、その企業は、彼女の「脱政治」的なコメントのみを拾って広告にしました。そのことは、その企業が人種差別問題にコミットしない、差別にあらがわないという、逆のメッセージを出すことになってしまっています。その企業の顧客や自社の従業員の中にも、人種差別の問題に直面する人たちはいるはずです。人種差別問題にコミットしないという姿勢が、差別を受けている人たちにどう伝わったか、意識してほしいと思います。

そこにある差別に気付く

日本社会には、「日本は差別の少ない国」という意識が根深くあります。しかし、それは実際にある差別を意識していないに過ぎません。私は、マジョリティーとは「気にせずにすむ人々」と定義しています。日本は差別が少ないのではなく、日本社会のマジョリティーの人々が、実際にある差別を「気にしないで」過ごしているだけなのです。

背景には、自分が差別に加担しているかもしれないと意識する議論が不足していることがあります。自分たちの足元で差別に根差した搾取構造がないか。自分たちの持つ「特権」について、繰り返しチェックを行う必要があります。

さらには、その特権を部分的にでも「移譲」する努力をしてほしいと思います。例えば、発言の機会を公平に配分することもその一つです。特権を持つ人も含めて、学びの場を設けることが大切です。

そうした議論に企業の側からもコミットしてもらいたいと考えています。例えば、社会学者や倫理学者などの研究者を招いた研修会を実施したり、番組やCMをつくる際に研究者や専門家と連携したりすることは、有効な方法だと思います。

企業が差別の問題に向き合うことは、企業の成長にもつながります。例えば、人種差別に向き合わない企業は、その姿勢がネックになって、顧客を失っているかもしれない。その反対に、人種差別にあらがう姿勢を明確にすれば、まだリーチしていない新しい顧客を獲得できるかもしれません。差別のない働きやすい職場にすれば、多様な人材が集まり、従業員も仕事に打ち込みやすい企業になるでしょう。

足場を固めるために、まずは研修からスタートすると良いと思います。職場の中に差別的な取り扱いがないか、サプライチェーンの中に搾取的な構造がないかなど、自分たちの足場を問い直すための研修などを行いながら、その上で、企業広告につなげることが大切です。一方で、広告でしか反差別に取り組まないならば、その表層性が反発を招くでしょう。

さらには、企業が利益の出る場面でしか「多様性」や「反差別」を採用しないのであれば、それも問題です。表層的にならず、実践を重ねることが大切です。

働く人の立場からできること

企業が差別の問題に向き合うためには、そこで働く人たちの存在が重要です。

最近は、消費の力で社会を変えようとするメッセージが飛び交っていますが、消費者の声が発信されやすくなったとはいえ、インターネット上の声は瞬間風速的であり、長い目で見れば、消費者にどこまで力があるのか疑問もあります。企業のあり方を変えていくためには、製品やサービスを生み出す生産の場から、働く人たちが声を上げていくことが極めて重要です。

労働組合は差別にあらがう姿勢を企業に先んじて明確にし、企業に働き掛けてほしいと思います。そうすれば、企業が間違った行為をしてしまった場合でも、消費者は労働組合を応援してくれるはずです。労働組合が、消費者と労働者が連携する具体的な道筋を示してくれるといいでしょう。反差別を実践する従業員を孤立させず、協働・共闘することも大切だと考えます。

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