特集2021.03

社会貢献活動・ボランティアの10年生活困窮者支援の現場から見た
日本社会の社会貢献活動の変化

2021/03/15
リーマン・ショックからコロナ禍へ。日本社会における社会貢献活動はどう変わったのだろうか。企業や個人の意識や行動はどう変わったか。生活困窮者支援の現場から見えるものとは?
大西 連 自立生活サポートセンター・もやい理事長

コロナ禍に見られた変化

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、「もやい」の受ける相談件数は従来の1.5〜2倍に増えています。相談は、感染症予防も踏まえ、生活費がないとか、住む場所を失いそうとか緊急性の高い内容に絞って受け付けていますが、それでもこの件数です。

相談件数が増え、支援側の人手不足が課題になっています。ただ、相談には専門的な知識や経験が求められるので、体制をすぐに倍にできるわけではありません。今以上に相談会の回数を増やすことが難しいくらい、現場を回すだけでぎりぎりの状態が1年くらい続いています。

リーマン・ショック後はボランティアに参加してくれる人が増えました。今回の場合は、「ボランティアに参加したいけれど、コロナだから難しい」という声をよく聞いています。

一方、物資やお金での寄付に関する問い合わせは、これまでとは比べ物にならないくらい多く寄せられています。

物資支援では、「もやい」とつながりのなかった企業からの申し出が増えました。物資支援はこれまで、子どもの貧困に取り組む団体には多く寄せられていましたが、自己責任の風潮が強い「大人の貧困」に取り組む私たちのような団体には少ない実態がありました。ところが、コロナ禍では、私たちのもとにも、物資支援の申し出が増えました。コロナ禍で数多くの人が生活困窮に追い込まれたという現実が社会に広く認知される一方、国の支援が生活困窮者に届いていない実態が明らかになり、現場で頑張っている団体を応援したいという意識が広がったのだと思います。

社会貢献活動の高まり

企業からの寄付の申し出も増えています。外資系や金融系の企業が多いです。グローバルな外資系企業などは売り上げの一定割合を社会貢献活動に充てる活動をこれまでもしてきました。そのお金はこれまで国際協力などに充ててきましたが、コロナ禍で国内の生活困窮問題にもそのお金を使うようになりました。少しずつですが関心が集まっているようです。今回、「もやい」では、海外企業からの助成も初めて受けることになりました。これまでとは異なる枠組みで企業からの寄付が寄せられるようになっています。SDGsの認知度も高まっています。企業の社会貢献意識の高まりを感じます。

これまでの企業の社会貢献活動は、企業活動にとって将来的に効果が見込めそうな分野に集中していたように思いますが、コロナ禍では、これまで自己責任とされてきた大人の貧困にも関心が高まったと感じています。感染拡大の影響が社会全体に及んだことで、生活困窮者に対する共感が広がったのではないかと考えています。

ただ、これには危うさもあって、今回はコロナという自己責任論が通じない社会全体の危機だから支援するのであって、その危機が去ったら支援をしなくてもいいという理屈になりかねません。その意味で、権利としての生活保障という観点はまだ弱いと感じています。自己責任であろうが、なかろうが、権利ベースとして、生活が保障されるべきという観点がもっと広がってほしいと思います。

その上で企業は、格差や貧困が生まれる社会の背景や構造について考えてほしいと思います。生活困窮者への物資支援に取り組み始めた一方で、足元では非正規雇用労働者を大量に雇い止めするのでは筋が通りません。もちろん支援活動をしないよりいいのですが、活動をする中で、生活困窮の問題がなぜ起きるのかを知り、足元の企業活動に反映してほしいと思います。

公助にも目を向けて

個人の意識の変化も感じています。コロナ禍は、リーマン・ショックより多くの人に影響を及ぼしています。生活が困窮してしまうことへの想像力は、リーマン・ショックの時より、コロナ禍の方が高まったのではないかと思います。その意味では、自分が生活困窮に陥った場合に、どういう支えがあった方がいいかという議論は以前よりしやすくなっているかもしれません。今回の出来事を機に、どのような生活保障の仕組みが必要なのか、議論を深める必要があります。

民間団体への寄付が増え始めた背景には、政府の対応が不十分だから、NPOなどに頑張ってもらいたいという期待を感じます。とてもありがたいのですが、そこには少し危うさを感じます。私たちのような民間のNPOにできることは、国の施策に比べれば、その規模はたかがしれています。政府による公助が期待できないから、民間の共助に期待するという気持ちは理解しますが、それだけでは不十分で、公助を機能させるための活動はやはり必要です。

厳しい言い方かもしれませんが、民間団体への寄付や助成などの支援で満足して終わってほしくありません。現場の活動を支えるだけで満足せず、公的な仕組みをつくらせるために、政治に声を反映させることをきちんとしないと、社会を大きく変えることはできないと強く感じます。

私たちのようなNPOも、寄付をもらって事業をするだけではなく、自分たちの事業がなぜ必要になるのか、その背景の問題を解決するための政策提言などをもっと行っていく必要があります。現場のNPOなどが、政府に頼っていられないからと声を上げなくなることは、権力側にとってとても都合の良いことです。現場の実態と乖離した制度をつくらせないためにも、現場から声を届けることが大切です。諦めずに積極的に声を上げていくことが私たちの使命だと思っています。

組合員へのメッセージ

労働組合の組合員の皆さんが、私たちの活動に参加してくれたり、寄付してくれたりしてくださるのはとてもうれしいです。ただ、それだけではなく、自分たちの職場のことにも目を向けてほしいと思います。

コロナ禍では、多くの労働者が苦境に立たされました。職を失わなくても、学校の休校で育児と仕事の両立がたいへんだったとか、慣れないテレワークでストレスを感じているとか、皆さん、何かしら困ったことがあったはずです。非正規雇用の雇い止めや処遇格差など、労働組合は職場の実態を把握して、改善する取り組みを実践してほしいと思います。組合員の皆さんが自分の職場の中で、業務委託やサプライチェーンも含めて配慮し、行動すれば、ものすごく多くの人に良い影響が及ぶはずです。半径5メートルや10メートルの中でできることはないか、チェックしてほしいと思います。

ボランティア活動にのめり込んで、家庭をおろそかにするのでは意味がありません。家事や育児の分担が偏っていないかなど、まずは足元から。そうやってできることから取り組むことが長い目で見えれば持続可能な活動になります。

それに加えて、おかしいことには声を出していく。政治に対して発言していくことも忘れないでほしいと思います。コロナの問題が出て1年がたって、日本社会はどう変わったか。それをきちんと検証し、次に生かすことが大切です。先の読めない不確実な時代だからこそ、たくさんの可能性が開かれているのだと思います。

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