特集2021.03

社会貢献活動・ボランティアの10年企業や働く人の社会貢献活動
「プロボノ」の意義と今後の展望

2021/03/15
社会的・公共的な目的のために、職業上のスキルや専門知識を生かすボランティア活動である「プロボノ」。企業や働く人たちが「プロボノ」に取り組む意義などについて、「プロボノ」のマッチング支援などを行うNPO法人サービスグラントの嵯峨代表理事に聞いた。
嵯峨 生馬 認定NPO法人
サービスグラント代表理事

企業の意識変化

企業がボランティアや社会貢献活動に取り組むべきという意識は、20年前に比べると社会にかなり根付いてきたと思います。CSRやSDGsといった言葉の認知度も高まり、社員がボランティアに取り組む機会を設ける企業も増えてきました。

ただ、近年は、2000年代の盛り上がりに比べると、企業のボランティア活動がさらに広がってきているという感覚はあまりありません。一方で、社会貢献活動を本業へのフィードバックが得られるような取り組みとして位置付けようと考える企業が増えていると感じます。企業の社会に対するかかわり方が、ボランティアという言葉だけでは収まらない方向へと広がっていると思います。

企業の行うボランティアには、大きく分けると、社員が気軽に参加できるようなものにしたいというニーズと、社員の経験やスキルを社会のために生かしたいというニーズがあります。これまで前者のニーズは一定程度満たされてきましたが、後者のニーズを満たした取り組みをできている企業はあまりありませんでした。そこで、プロボノのような専門性やスキルを生かしたボランティアへの注目が高まってきたのだと感じています。

また、普段の取引相手は事業者中心であっても、その先にいる消費者や社会に対する視座がなければ本業のビジネスも発展していかない、という考えから、社会貢献活動を取り入れようとする企業もあります。その一環としてプロボノを推進する企業も出てきています。プロボノを、本業につながる気付きや社会への理解を広げる場と位置付けているのです。

一昔前なら、「ボランティアをしている暇があるなら仕事をしろ」という感覚が残っていたかもしれませんが、今では会社の外に目を向けて意欲的に社外と接しようとする人を評価する傾向が強まっています。企業におけるボランティアや社会貢献活動の位置付け、社員のスキルに対する考え方が変化しているのだと感じています。

プロボノの「効用」

プロボノの活動内容も年々変化してきています。当初は、主にホームページやパンフレットの作成といった情報発信が中心でしたが、NPO法が成立し20年以上がたつ中で、NPOの業務フローやマニュアル、中・長期の事業計画を手伝うことも増えています。コロナ禍では、活動のオンライン移行に関する支援のニーズが高まりました。

プロボノは、特殊なスキルや高い専門知識が必要だと思われがちですが、企業に勤めている人たちは仕事の中で日々トレーニングされているので、プロボノで活用できるスキルを十分に持っています。例えば、営業職の人であれば、顧客のニーズに耳を傾けて、課題を抽出し、提案に反映するなどのことを行っていますが、そうしたスキルを市民活動に生かすことができます。

あわせて、働く人たちがプロボノなどの社会貢献活動に参加して得られるものも多くあります。実際にプロボノに参加した人からよく聞くのは、「視野が広がった」「出会いの幅が広がった」ということです。「社会に対する見方が変わった」という声もよく聞きます。ニュースで見聞きしていた社会問題について、プロボノに参加し、当事者と会話することなどで課題への理解が深まったと話す人もいます。

私たちのプロボノでは、2〜3カ月のプロジェクトに、5〜6人のチームで参加してもらうことが多いです。1週間の平均活動時間は3〜5時間です。

チームを立ち上げてから成果を出すまで活動に一貫して携われるという経験は、大きな企業に勤めている人ほど新鮮だと話してくれます。

また、「プロジェクトマネジャー」をはじめ、いくつかのポジションもありますが、プロジェクトマネジャーであっても、企業のように「管理職」然としていたら、プロジェクトはうまくいきません。メンバーのモチベーションを引き出しながら、楽しくプロジェクトを進められるかが重要です。プロボノを経験して会社に戻って、「人が丸くなった」と言われた管理職の人もいました。プロボノを通じて、営業のスタイルが提案型に変わったという人もいました。このようにプロボノの経験は、本業での働き方にも影響しています。

企業の姿勢を整理する

私たちのプロボノにはこれまで6500人が登録し、約4500人が実際に活動に参加しています。

今後、プロボノに参加する人を増やすためには、プロボノの認知度を企業内で高める必要があると感じています。

大企業であれば、個人的な参加を含めればプロボノの経験者が企業内にいるはずです。そうした人材の存在を、企業が把握していないケースも少なくありません。まずは企業がそうした人材の存在を把握して、企業の中でプロボノの認知度を高めるために活用していくことが効果的だと思います。例えば、プロボノの説明会で、「語り部」になってもらい、社会貢献活動の楽しさや可能性、課題などについて語ってもらうことは一つの方法でしょう。社会貢献活動の経験がある人材をうまく生かすことが大切です。

まずは、企業が、事業の中に社会貢献活動をどう位置付けるかが重要です。企業としてどのようなスタンスで社会貢献活動に取り組むのか、まだ整理されていない企業も多いのではないでしょうか。

事業活動の一環にプロボノを位置付けている企業もありますが、そうした企業では、私たちのような団体と連携して行い、その活動に社員が応募して参加しています。プロボノの活動自体は、業務としてではなく、ボランティアとして行い、プロボノの説明会や活動報告会は業務時間内に行う企業もあります。

企業がプロボノの活動を促進していれば、社員も安心してその活動に参加できます。会社としてプロボノに取り組めば、プロボノに参加している社員がいることを上司も把握できます。こうした環境があるだけでも、社員は活動に参加しやすくなると思います。会社の中に参加経験者の体験談を蓄積する「プロボノ・コミュニティー」を設けるのもいいかもしれません。

労組の魅力度を高める

プロボノを推進することは、企業の姿勢の表れでもあります。「働き方改革」で、長時間労働を是正することに加え、社員が社会貢献活動に参加できる選択肢を提供できれば、中・長期的に企業のサービスの向上や新事業の発案につながっていく可能性があります。それは社員にとっても、新しい生きがいや働きがい、企業に対するロイヤルティーを高めることにもつながるはずです。

労働組合の皆さんには、企業の社会貢献活動を促進する役割を発揮してもらいたいと思います。同時に、労働組合の中にも社会貢献活動に参加したい組合員が大勢いるのではないでしょうか。労働組合がプロボノへの参加の場を提供し、組合員のニーズに応えることができれば、労働組合活動への理解者も増えるのではないかと思います。

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